早くに夫に先立たれた未亡人で、雇われマダムとして働く銀座のバーの売り上げが芳しくないと経営者から咎められる矢代圭子。その最たる原因である太客を連れて独立したユリの店へと直談判のために赴いた彼女が、実はユリもまた経営に苦労していると知り、如何ともしがたい厳しい歓楽街の世界で揉まれ苦しむ様を描いたドラマ映画です。
女性映画の名手の評を確立した成瀬巳喜男が『隠し砦の三悪人』らの黒澤映画の脚本家として知られる菊島隆三とタッグを組んで作り上げた1960年公開の作品で、主演は成瀬映画ではお馴染みの高峰秀子が務めて商売女が歩む数奇な物語を熱演。死後にようやくその存在を知られることになった海外でも多くの好評を集める代表作となりました。
自分を売ることが熾烈な肉体労働で過酷な精神労働であることを一見華やかな銀座の女を通して描き、女性ひいては人の生き辛さが戦後も変わらぬ様に愕然とする一方、だからこそ上る一段の高さが心に響きます。それから60年。女が、男が、日本が、階段を上った先にあったものは。まだ上れる階段が残ってると願わずにいられない一作です。