緑雨

クラッシュの緑雨のレビュー・感想・評価

クラッシュ(2004年製作の映画)
4.0
「衝突(クラッシュ)」を描いた映画だけに、人と人との衝突、すなわち口論のシーンの出来栄えがどれも素晴らしい。

銃砲店の店主とペルシャ人家族との口論、警察官マット・ディロンと病院の電話オペレーターとの口論、鍵屋とペルシャ人店主のドアを交換しろできないの口論、TVディレクター夫婦の不信感を露わにする口論…無数に散りばめられた口論の緊迫感と壮絶さ。互いの人格をストレートに剥き出しにして切り合い傷つけ合う。感情の昂ぶり。こういった妥協なきぶつかり合いの演出がベースにあるからこそ、作品全体に見応えと説得力が生まれる。

それにしても、ペルシャ人の商店主が逆上する
場面での”透明マント”の伏線回収には思わず声を上げて唸ってしまった。映画を観ていて素晴らしい演出に唸らされることは多々あるが、このように純粋に脚本に唸らされることはめったにないこと。また、TVディレクターテレンス・ハワード(いい役者だ!)がライアン・フィリップ演じる若い警官の理性的な説得にも感情をコントロールできなくなる件りなんかも、それまでの妻や警官との出来事がよく効いている。フィリップがディロンとのペア解消を訴えるシーンでの黒人上司の応対なんかも、非常によく設計されたダイアログだ。

決して脚本だけの映画ではないのは承知するが、こう巧さを見せつけられると、これが「脚本家が撮った映画」であることがつい頭をもたげてしまう。終盤たくさんのエピソードの輪が都合よくつながりすぎるあたり、やや「脚本過剰」の印象を受けてしまったり。

ラストの大団円はちょっと優しすぎるかな、という気もしないでもないのだけど、誰の上にも等しく雪は降る、みたいな余韻も悪くない。
緑雨

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