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クラッシュのsatchanのネタバレレビュー・内容・結末

クラッシュ(2004年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 ポール・ハギス監督、アカデミー作品賞受賞した作品。
 サンドラ・ブロックがもっともっと出てくると思っていたけれど、何分の一だろう、そんなに多くない。『サード・パーソン』と同じように、車の中や、ドアを閉めるシーンなど、同じシーンを重ねることで、別の場面へと切り替わっていく、面白い手法。今見ていたはずの警官のシーンが、別の事件の現場へと切り替わる、みたいな。
 どの登場人物も、黒人、ヒスパニック、東欧など様々な人種に対して偏見を持っていて、何らかの差別的発言をするんだけど、結局、困った時に助けてくれる人、助ける人が、実は自分が偏見を抱いていた人たちである、皮肉が込められている感じです。マット・ディロンが刑事としてタンディ・ニュートンに行う職務調査の様子は酷かったし、テレンス・ハワードがテレビ番組で黒人らしくないセリフと戒められる様子も呆気にとられました。もしも私が、お前の英語はジャップらしくないと、アメリカ人、あるいは他の人種に言われたとしたら、その憤りを想像すると恐ろしいです。サンドラ・ブロックがカージャックをきっかけに黒人に対する恐怖を抱く様子は最もだけど、鍵を直しに来たマイケル・ペーニャに対する罵声はお門違い。ウィリアム・フィクナーが地方検事の側近として、ドン・チードルに持ちかける取引もひどい。マット・ディロンの差別的言動に起こっていたはずのライアン・フィリップが、恐怖心からヒッチハッカーの黒人ラレンズ・テイトを撃ち殺し、遺棄してしまう、損得計算が働いている。人間、みんな、善人と悪人の顔を持っていて、上手に使い分けているんだと思う。そうすべき自分と、そうではない自分。そのコントラストが面白い映画でした。
 また、私が面白いなと思ったのは、怒りのきっかけになる事象を暗示させるシーン。例えば、マット・ディロンはひどい人格の持ち主だけど、家に帰ると尿道炎の父がいて、介護している。サンドラ・ブロックは毎朝言いようのない怒りを持って目覚めると夫に打ち明ける。怒りの発端は違うところにあるのに、ぶつけ場所がなくて、結果別のところで発散させている、そんな風に見えました。実際にもそうだと思う。怒りの根本的な原因は、怒りの対象と違うところにあることが多い、と思います。
 マイケル・ペーニャが娘を安心させようとして天使の羽の話をするところは良かった。ペルシャ系小売店主の発砲と娘が仕組んだ空砲も良かった。ペルシャ人を通して、黒人、ヒスパニックだけでなく、世界中に様々な人種がいるという事実にも触れていました。私も、日本人なのに、人種選択項目に、アジア人としかなくて、アジア人でまとめられたことに怒りを覚えたことがあります。人種を超えた人間愛が描かれていて、『サード・パーソン』より、この作品の方が好きです。
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