EDDIE

クラッシュのEDDIEのレビュー・感想・評価

クラッシュ(2004年製作の映画)
4.6
憎しみと差別の連鎖。人間は断ち切ることができるのか。善は必ず悪を裁けるわけでもなく善が必ず善を貫けるわけでもない。人は人を見るときバイアスがかかってしまっているのだろう。結末がまた皮肉めいた終わり方の傑作ヒューマンドラマ。

初見だと思って鑑賞しましたが、これは過去観たことありました(笑)
とても素晴らしい作品です。差別を題材にしておきながら、説教臭く差別を断絶しているわけでもない。映像で魅せて鑑賞者の感性に委ねる“ザ・映画”です。

脚本家ポール・ハギスの監督デビュー作でありながら、いきなりのアカデミー賞作品賞受賞。物語自体は結構複雑に時系列もバラバラに進んでいくんですが、伝えたいことは至極シンプルです。差別はダメだとかそんな短絡的なことではなく、物事を俯瞰して自分の意思で良いと思う“判断”をすること。そういうことだと解釈しています。
他にもアカデミー賞脚本賞と編集賞を受賞していますが、いずれも納得の受賞。本作はクリスマス映画としても素晴らしい作品だと言えるでしょう。

本作の複雑さはまず主要人物の多さにあります。黒人警官グラハム、ファハド&ドリのペルシャ系人種の父娘、地区検事リックと妻のジーン、アンソニーとピーターの黒人強盗コンビ、ベテラン警官のライアンと新人警官トムのコンビ、TV演出家のキャメロンと妻クリスティーンの黒人夫婦、メキシコ系アメリカ人で錠前屋のダニエルという具合です。
彼らのいずれもが脇役ではなくメインキャスト、しかも112分という尺の中で交通渋滞を起こすことなく、見事に交錯していく模様が素晴らしい。

皮肉だと感じたのは警官コンビの2人。父の介護のストレスもあり虫の居所が悪いライアンをマット・ディロンが演じます。彼は夜道で黒人夫婦のキャメロンとクリスティーンを取り締まるわけですが、そこでクリスティーンにセクハラを働きとんでもなく不快なキャラクターだと我々に意識を植えつけていきます。
一方、ライアン・フィリップ演じる彼の相棒トムは、育ちがいいのかやはり差別はダメだという正義感を併せ持ち、ライアンとのコンビ解消を上司に相談することに。最悪告発まで考えている正義感の強さで、本作における“善”のキャラとして描かれます。
この2人の歩む結末が皮肉にも真逆に向かっていくのが何とも言えません。

またマイケル・ペーニャ演じるダニエルはファハドとトラブルになり逆恨みされて襲撃を受けてしまうわけですが、ダニエルの娘に透明のマントを着せるエピソードがそこで深く作用して感動を覚えました。ここは涙腺崩壊。

ドン・チードル演じるグラハムは母親とちょっぴりギクシャクした関係で、パートナーのリアとセックス中に電話がかかってきて行方不明の弟の捜索をお願いされますがこれをテキトーにあしらいます。これもまた後に彼の人生に大きな影響を及ぼす選択となるんですが、本当に一つ一つが巧いんですよね。
必要な場面だけ的確に抜き出して、コンパクトにまとめる才覚に長けた監督なんでしょう。正直これを脚本時点からゼロベースで考えたと思うと天才としか形容しようがありません。
実際ハギス監督は自身が過去に受けたポルシェのカージャックされた事件をもとに本作の脚本を組み立てたそうです。

一つ一つの選択が後の人生に後悔の念を及ぼすある意味教訓的なテーマを持っています。だからと言って正直人間は不完全。明日から気をつけようなんて言ったって、しんどい時、めんどい時、あらゆる負の感情を持ち合わせた時には「あの時こうしておけばよかった」という選択の後悔の念に駆られること請け合いでしょう。全てで気をつけることなんてできません。人間は時に誤ります。
だからこそ、本作ではリュダクリス演じるアンソニーの行動がとても重要なファクターとなっているんだと思います。彼は自動車強盗です。つまり犯罪者。彼はテレンス・ハワード演じるキャメロンとの出会いがその後の彼の選択に大きな影響を及ぼします。
所々映し出される聖クリストファーの像。本作のもう一つのテーマは“赦す”ということだと考えられます。

善悪の選択をバイアスに捉われることなく下せる“判断力”と過ちを犯してしまった人間でも“赦す”こと。
本作で学べることはたくさんあります。本当に素晴らしい作品です。

キャストも上に挙げなかった俳優で、ブレンダン・フレイザーやサンドラ・ブロック、ウィリアム・フィクトナー、タンディ・ニュートンなどかなり豪華。
直接的な絡みはないですが、後にMCUでローディ役をバトンタッチすることになるドン・チードルとテレンス・ハワードが共演しているのも要注目です。

※2020年自宅鑑賞183本目
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