荒野の狼

男はつらいよ 寅次郎相合い傘の荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、1975年に公開された『男はつらいよ』シリーズの第15作で、マドンナに再び浅丘ルリ子(当時35歳)演じるリリーをむかえた作品。本作の冒頭では寅さんは青森県青森市におり善知鳥(うとう)神社(白くて大きな一ノ鳥居が確認できる)や青函連絡船が背景に見られるが、、青森県は第7作「奮闘篇」でもロケ地になっている(この時は弘前市、嶽温泉、岩木山など)。寅さんは、この後、北海道にわたり函館と小樽でリリーと重役サラリーマン・兵頭(船越英二)の三人で珍道中を繰り広げる。この中で、船越が何十年も前の初恋の人である岩崎加根子に会いに行くシーンがあるが、ここでは船越は寅さん顔負けののナイーブな演技をみせ、これを受ける岩崎も切ない表情でよい。
本作のリリーは、再登場ということもあり、人間性がより深く描かれており、「女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい」のセリフは、現代的で素敵であるが、これに対して、寅さんをしても「可愛げがない」という反応であるのは残念で、当時の男性社会の限界を思わせる。
題名の「相合い傘」は、寅さんとリリーが映画の中で実際に相合傘となるシーンがあるが、このあたりは大人の恋愛映画と言うにふさわしいもの。ほんのわずかの行き違いで、男女の恋愛が成就するかしないかの境目になるというのは、シリーズのひとつの特徴ではあるが、本作では特に人生の機微が思われる出来栄えになっている。
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