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Ray/レイの東京キネマのレビュー・感想・評価

Ray/レイ(2004年製作の映画)
4.5
私、この映画ず~っと敬遠してたんですよね。だって、どう考えてもジェイミー・フォックスがレイ・チャールズなんてあり得んでしょ・・・と思ってたからなんです。でもね、観たら分かりますが、ビックリしますよ、余りにも似てるんで。造形的な部分はそりゃ仕方ないですよ。でもね、ソウルが乗り移っているというか、情念が同調していると言いますか、伝わって来る電波が同じなのです。

でね、ジェイミー・フォックスのピアノの指さばきがあんまり凄いんで調べてみたら、これ又ビックリです。彼、ピアノ専攻でジュリアード音楽院を卒業してるんですよ。それに、本映画のためにレイ・チャールズ本人からも特訓を受けたんですって。だからね、この本物感は伊達じゃないんですね。それとね、この映画を見て感じたんですけど、レイ・チャールズのような天才でも幾つかの僥倖が重ならないと世の中には出てこなかったんじゃないかと思うんです。

一つ目は母親です。『盲目だからといって人からお情けをもらうんじゃなく、どんな時も二本の足で立てる人間になりなさい』と言ったのです。それも盲目になった瞬間にです。これ、並みの母親じゃ言えません。

二つ目はワイリー・ピットマンとの出会いです。それも失明する前に、近所の食料雑貨店で練習しているところを覗いて、それでピアノを教えて貰ったっていうんですから凄い話です。泥水すするような生活の中、ピアノの名人が弾くブギウギを直接聞けたってことも凄いですが、その人から直接ピアノを教えてもらったってことも普通じゃあり得ません。ルイ・アームストロングがトランペットを学んだのは少年院だったという話も有名ですが、その当時、貧しい黒人の子供が収監された少年院でトランペットを教える人が居たってことの方が、黒人成功物語よりも何倍も凄いことですよ。それと同じです。環境の凄さといいますか、アメリカの懐の大きさといいますか、こういった社会の豊かさは本当に重要です。(これ、突き詰めちゃうと、黒人差別がレイ・チャールズを生んだってことにもなっちゃうんで、あんまり大きな声では言えませんがね。。。言論統制すればむしろ広まる、ボカシを入れればもっと エロくなる、の法則と同じですね。。。笑)

そして三つ目には、アトランティック・レコードの創設者アーメット・アーティガンと出会えたことですね。レイ・チャールズの音楽の方向性が定まってない時期に、音楽に情熱を持った名プロデューサーと会えたというのも、これまた偶然というには余りにも出来すぎた話です。

レイ・チャールズは常人では理解できないくらいの天才ではあったが故に、金の亡者だ、女ったらしのジャンキーだと言われ続けていましたが、それもこれもこの三つの偶然がなければレイ・チャールズは存在しなかったでしょう。それにね、この映画、それを因果関係にしていないんです。それもこの映画の良い所ですね。偶然はありますし、それで人生が決まることはあるでしょう。しかしね、因果関係の作劇は大体が負け惜しみか、結果論の自慢話なんですって。。。
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