大学生の時からもう何度観たかわからない、紛う事なく自分にとってのオールタイムベストの一つに入る映画。少なくとも10回以上は観てます。久しぶりにまた観ましたが、その輝きは変わってませんでした。
まずストーリーが良いです。「天才を殺す凡人」を地で行くような話ですが、それを軽妙にわかりやすく表現してます。オープニングは一体何これ?と、戸惑ってしまうシーンから始まりますが、そこはかの有名な交響曲第25番を聞かせる事で気にならなくしてます。
オープニングが終わると、なにやら変な人達がいる病院のような所に若い神父が現れます。その神父が入院しているサリエリの告白を聞く、という形で物語は展開します。この時アイネ・クライネ・ナハトムジークを聞かせるワンシーンで、天才と凡人の大きな差を見せつける演出がいいです。
宮廷音楽家だったサリエリは、モーツァルトの噂を聞いてどんな立派な人物なのか合うのを楽しみにしていたら、そいつは汚い言葉を吐く、下品で礼儀のカケラもない猿だった、とわかります。でも、彼の作る音楽だけはまがう事なく一級品で、サリエリはこのギャップに混乱します。神に選ばれた一流の芸術家は崇高な人であるべきという思いがあったのでしょう。そういう人現代でもいますよね。
ザルツブルグからウィーンに拠点を移したモーツァルトは、無邪気に悪気なく、でも確実にサリエリに対し才能の差を見せつける行動をとっていきます。サリエリはそれを不快に思いながらも、その素晴らしい才能を真に理解しているのは自分だけだという、ある意味矛盾した心理状態に陥ります。
この後の運命を決定づけたのが、音楽教師のオーディション用に、モーツァルトに黙って沢山の楽譜をサリエリにみせにきた、妻のコンスタンツェとサリエリの場面です。サリエリは後で見るから置いて言ってくれと言いますが、コンスタンツェはバレるからと断ります。その楽譜はなんと完全なオリジナルで1つしかなく、しかも一つの書き直しの跡もないものでした。サリエリは楽譜を見ながら頭で音を再現します。そのどれもが完璧で、一つの音符を足したり引いたりしたら全てが壊れる完成度であり、まさに神の言葉そのものだと悟ります。
このシーンは圧巻で一番好きな場面です。言葉でいうことこんな感じですが、音と一緒に観ると、音楽の事なんかそんなにわかりもしない自分もなんかそんな気分になります。名シーンだと思います。この事がきっかけでサリエリは、敬虔な自分ではなくモーツァルトを選んだ神を敵と見なし、その申し子のモーツァルトに復讐をはじめる、そういうお話です。
ストーリーもさることながら、音楽の選曲や使い方、セットの豪華さなど観ると聴くがこれまた素晴らしい。大学生の頃、この映画がきっかけでモーツァルトのCDやレコードを全部集めようとした事があります。それだけ影響されました。
また演技がいいですね。モーツァルトを演じたトマス・ハリスはこの映画以外では観てませんが、モーツァルトそのものだと思わせるものでした(もちろん本物を観た事はありませんが)。サリエリ役のマーリー・エイブラハムも、天才を妬む凡人の役を見事にこなしてます。
いいとこずくめの映画ですが、やっぱり一番はモーツァルトという本当の天才を題材にしている事が大きいでしょう。突き抜けた天才って観ていて気持ちがいいです。この映画は、天才を単に賞賛するのじゃなくて、ミステリーとして、喜劇として、悲劇としてエンタメ度満載に見せてくれている所が大好きです。今でも後悔しているのは、なぜこの映画を劇場で観なかったのかという事です。リバイバルがどこかであれば、今度こそ観に行きたいとおもいます。
クラッシックファンでなくても、3時間という長い映画は嫌だという人も、確実に楽しめる映画です。オススメです。