Cisaraghi

ツォツィのCisaraghiのレビュー・感想・評価

ツォツィ(2005年製作の映画)
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初めて見るアフリカで製作された映画というか、イギリスと南アフリカ合作の南アフリカ映画。

南アフリカといえば、今もアパルトヘイトの影響下から抜け出せず、失業率の高さ、治安の悪さ、殺人事件の多さなどで悪名高い。
 そのイメージ通りの、チンピラと呼ぶにはタチの悪すぎる彼等が映画の中で最初の犯罪を犯した時点では、彼らの顔はとても恐ろしく醜く見えた。
 しかし、映画が進むにつれて彼らの顔に徐々に心が現れて来ると、恐ろしさや醜さは感じなくなってくる。ツォツィの顔には、激しく傷つけられた魂が見えてきた。

彼らの生きる現実は想像を超えていて、簡単に人を殺すのも、戦場で人を殺すことが正当化され、そこに人間が適応することを考えれば、この社会で生きる人たちは、また別種の善悪基準に適応して生きているだけではないのかとも思えてくる。(映画には登場しないが、南アフリカでは殺人以上に、常態化しているレイプの多さが極めて異常だ。)
 でも、この希望を持てる方がどうかしてると思えるくらい酷い現実の中で、それでも人間は太陽を求め、心を失わないで生きていこうとせずにはいられない存在だ、と描いていることにかろうじて救われる。

スラムの背景にある不思議な黄昏色の空は、この前見たオデッセイより火星っぽく見えた。

それにしても、あんなホントの乳飲み子を映画に登場させるって、驚くな。

2009年の段階での南アフリカ人の平均寿命は、白人で71歳、黒人で48歳だそうだ。AIDSの蔓延が平均寿命を一気に押し下げた。土管で暮らす子供たちは、AIDS孤児問題を象徴しているのではなかろうか。(現在はAIDS対策によって平均寿命は少し上向いているようだが。)

アパルトヘイトとは、単なる人種差別政策というより、黒人を奴隷労働力として計画的に搾取するための悪辣で怜悧で反人道的な経済政策だったのだと、この映画を見た後少し調べて知った。

アフリカはあまりに広大で複雑で怯んでしまうが、ヨーロッパ人がアフリカに何をしたかということは、人類の負の歴史としてもっと共有しなければならない、アフリカの歴史を知ろうと思った。
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