アラサーちゃん

ミスティック・リバーのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

ミスティック・リバー(2003年製作の映画)
4.0
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〖ミスティック・リバー〗
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地味に好きな作品をpostしよう強化期間。

最近、オーソン・ウェルズやら「恋ひとすじに」やら「シェイクスピア物語」やらの投稿でどうにもシェイクスピアに感化された作品に傾倒してますが、この作品も監督自ら「いわば『アメリカン・シェイクスピア』である」と言い切ってます。
シェイクスピアらしい悲劇の作品、というか、悲劇ではあるのだけれど、サスペンスに重厚に塗り固められた「罪」「赦し」という人間ドラマがとにかく素晴らしい。
そしてストーリー、プロットも去ることながら演出やキャスト、映像すべてにおいて、とにかく"完璧を尽くした映画"だと私は思ってます。

ボストンに暮らす三人の男、ジミー、ショーン、デイヴ。街のギャングのボスとして、刑事として、平凡な父親として生きる3人は、それぞれ別の道を歩んでいるが、かつては仲の良い幼馴染だった。"とある事件"が起きるまでは。
しかし、ジミーの娘が殺されたことで3人は思いがけずに再会する。私怨に燃えるジミー、仕事を全うするショーンは各々で犯人探しに明け暮れ、デイヴはある出来事に遭遇し心を痛めていた。やがて犯人探しは思わぬ方向に進んでいく。
それぞれが背負った当時の傷と後悔の念に縛られつつ、3人の運命は、皮肉にも当時の彼らの姿を浮き彫りにしながら、絡み合って動き出す。

幼い子ども時代のささいないたずら。ただそれだけのはずだった。反発するジミーと傍観するショーン、そして素直に従ったデイヴ。この三者三様の態度が、三人の運命を分け、さらに25年後の彼らにも、大きな波紋を広げることになる。

ジミーを演じるのがショーン・ペン。娘を殺害されたつらさはおろか、幼い頃の"とある事件"についても、その後の様々な行為についても、つねに自身の「罪」について苛まれ、つねに「赦し」を求めている。その苦しみを画面いっぱいで体現する、かつ元ギャングのなんとも言えない冷たい瞳がクールで退廃的でかっこよくて、しびれた。
この時、ペンはアカデミー賞で主演男優賞をとってます。ちなみにこれ初めて観た頃、ほんとにショーン・ペン大好きだった。

つねに俯瞰し、ストーリーのリード的立ち位置となるショーンを演じるケビン・ベーコン。クズな役だったりとてつもなくかわいそうな役だったり奇を衒うような役回りの多い彼ですけど、こういう静かで淡々としている役が好きです。
このベーコン演じる『ショーンと妻の関係』というのも劇中で深い意味を持ち、大きな影を落としているのですが、言及し出すと止まらなくなってしまうのでとりあえず割愛。

物語のキーマンとなるデイヴ。彼こそ"とある事件"での唯一の被害者であり、拭いきれないトラウマと癒えない傷を誰にも言えずに心に抱えている。それを演じるのがティム・ロビンス。そして、彼が助演男優賞に輝いてます。

とにかくここまで述べてきたストーリーの重厚さや、キャラクター、三人の演技が素晴らしくて、これだけでも「後世に語り告げるレベルの完璧映画」である所以は語れるのだけど、そこに華を飾るのがそれぞれの妻である。

ジミーの妻を演じるのがローラ・リニー。彼女はジミーの後妻で、殺された娘の実の母親ではありません。しかし、悲しみに暮れる夫を愛し、復讐に燃える夫を励まし、心からジミーを支える。そして、ラスト10分彼女の姿にフォーカスして映画を観ていると、心が凍りつきます。
一方で、デイヴの妻を演じるマーシャ・ゲイ・ハーデン(タカビーな役多くてあまり好きになれない)。夫を深く愛しているものの、彼の心の奥底に眠る思いに寄り添えずにいることに寂しさを感じている。後半、その夫への愛を天秤にはかる、大きな決断に迫られる。

この妻の演技合戦もまた見事なんですよな。この人たちが対峙するのが、結局、最終的にラストシーンなわけですけど、ここのシーンほんとすごいです。

街にあふれるパレードの波。賑やかで楽しいパレードを挟んで向かい合うふたりの妻。この時のローラ・リニー、マーシャ・ゲイ・ハーデン、それぞれの表情が言葉に出来ないのです。素晴らしすぎて。怒りに狂ってるわけでもない、泣きわめくわけでもない、それでも、その表情だけですべてを飲み込んでしまう迫力があります。
そして、その後に家から出てくるジミーと、パレードを見に来ていたショーンの目が合う。そしてふたりがお互いに見せるポーズ。この意味の解釈はたぶん人によって違うんだろうけど、タイトルである〖ミスティック・リバー〗のごとく流れゆくパレードの対岸に位置する登場人物たち、これをラストに持ってきたイーストウッドに脱帽するっていう映画です。

言及したい部分なんて山ほどあるのでまだ前菜部分しか語れてないですけど安定の字数制限になりそうなんで辞めておきます。

実は結構イーストウッドの映画好き。無難で突飛なつくりはしないけど、ディテールまで凝っていて、正確で無駄がなくて優秀で。とにかく何を作らせても素晴らしい。
最近だとベン・アフレックがイーストウッドとか言っているけど、ほんとそういうの頼むからやめてほしい、ベンアフあまり知らないし好きでも嫌いでもないけど、イーストウッドはやっぱり唯一無二の人。