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ミスティック・リバーのtakのレビュー・感想・評価

ミスティック・リバー(2003年製作の映画)
3.7
クリント・イーストウッド主演作や監督作の多くに共通するのは、タフガイのイメージである。単に強いだけのヒーローではなく、強い信念を持った男性像が我々を魅了してきた。ところがこの「ミスティック・リバー」には、そんな男は誰ひとり出てこない。ただでさえ感想を言葉にしにくいイーストウッド映画だが、「ミスティック・リバー」が他の作品と違う特徴を挙げるとすればそこだろう。

お気楽なハリウッドの銀幕世界とは違って、現実の人間は誰しもが弱いものだ。ヒーローもタフガイもいやしない。この映画に登場する面々も同じ。幼い頃の誘拐監禁事件をトラウマに持つ彼らは、大人になってもそこから逃れられないでいる。それ故に、この事件に何の関係もないはずの監禁誘拐事件が彼らの中で関連づけられて悲劇へと進んでいくのだ。何かに引きずられるみたいに。

イーストウッド監督の視線はいつになく厳しい。これほど人間を見つめたアメリカ映画は近頃ちょっとなかったように思う。確かに後味は悪い。でも見終わって言いようのない切なさが残るはずだ。人生は楽しいだけじゃない。映画だって同じ。この力作をハッピーエンドでないことだけを理由に「ハズレ」と言う輩がいるのは残念だけど、エンターテイメントしか求めてないなら、こんなイーストウッド映画なんて選ばないでアメコミ映画でも観てなさい。

ストーリーや人物設定にはやや理解し難いところもある。それを抜きにしても、男優たちの力演を観るだけで入場料の元は取れるだろう。娘を失った悲しみと怒りがむき出しのショーン・ペン。常に何かに怯えているようなティム・ロビンス。やたらと渋くなったケビン・ベーコン。ラストシーンには複雑な思いに駆られる。喪失感の中で流れる行進曲はとても空しい。映画って日頃触れることもない感情や経験を感じることができる2時間でもある。観終わってうまく語れなくてもそれでいい。映画を通じて感じた痛みは、もしかしたら実社会で、誰かの痛みを少しでも感じ取れるのに役立つかもしれない。こういう映画はキツいけど、いつかどこかで人生を深くしてくれるはず。
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