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渚にてのbackpackerのレビュー・感想・評価

渚にて(1959年製作の映画)
5.0
カット回数、361回。
12月1作目は、映画史に燦然と名を輝かせる、終末世界系映画の古典的名作、『渚にて』を鑑賞しました。いつか見たいと思い続け、漸く見ることができました。
ここだけの話、ちょっぴり泣いてしまいました。

【あらすじ】
1964年、第三次世界大戦(原子力戦争)後のオーストラリア。世界は放射能に包まれ、北半球は人間の住める環境ではなくなった。唯一残された人類の生存圏である南半球のオーストラリアにも、風に乗り、放射能が満ち始めていた。
アメリカ海軍原子力潜水艦のドワイト・タワーズ艦長は、寄港したメルボルンで新たな極秘任務を受ける。それは、南極での放射能観測、並びに、壊滅したアメリカから打電されてくる、意味不明のモールス信号の発信源の調査であった……。

この映画は、とても静かで、生命力に溢れ、愛に満ち、どこまでも悲しく、そして美しい、そんな映画でした。

印象深い言葉もいくつかありました。
「近頃のが口癖でね」
「全員死亡です」
「平和を保つために武器を持とうと考える。使えば人類が絶滅する兵器を、争って作る」
「THERE IS STILL TIME..BROTHER」
などなどです。

撮影は極めて単純で、過剰な編集は見受けられませんでした。パン、ティルト、長回しなどを極めてスタンダードなやり方で、丁寧に美しく撮影されていたように思えます。

ヨットレースのシーンまで、カットバックすら殆どありません。基本長回しとパンで撮られています。
そんな長回しを多用し、全体的にゆったりと撮られている映画ですが、カーレースのシーンでは素晴らしいスピード感で激しく展開していきます。
映画全体を通して、メリハリを感じられました。動と静がやり過ぎない程度に明確に別れ、それこそが、緩やかな終わりを迎えていく世界を現していたんだと思います。

残酷な現実の元で生きながら、決して暗い雰囲気に落ち込みきることなく、のどかで牧歌的な明るさを放ち続けている人間の姿。
見えない死が少しずつ忍び寄ってくるからこそ、力強い愛の光を放つ人間の姿。
感動的でした。

ロールカーテンとコカ・コーラの瓶。
近づいてくる終わり。
17個玉の置かれたビリヤード台。
少しずつ減っていく人々の影。
グレゴリー・ペッグの優しい眼差し。
エヴァ・ガードナーの情熱的な笑顔。
フレッド・アステアの皺が刻まれた渋い顔。
アンソニー・パーキンスの憂いを帯びた微笑み。
儚く胸を打つ音楽。
そして、警鐘を鳴らす恐ろしい終わり方。

終末世界系映画やディストピア系映画の古典、堪能させていただきました。
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