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トラスト・ミーのKKMXのレビュー・感想・評価

トラスト・ミー(1990年製作の映画)
4.8
 美しいガーエー!そして素晴らしき傑作!

 前作『ジ・アンビリーバブル・トゥルース』の煌びやかで楽天的な80’sポップ感から1年で閉塞的でモノクロなグランジ・オルタナ感に一転した本作。
 主人公マリアは序盤、キラキラの80’sガールですが、妊娠・父の死・母親からの搾取等ハードな現実に直面し、一気にモノトーンな90’sの雰囲気になりました。このシビアさ・シリアスさが本作の個性かなぁと感じています。
 シリアスな作風ながらもやはりどこかセンチメンタルなので、Nirvana というよりもRedd Kross って感じです。シリアスだけどほのかにポップな一作でした。


 本作の登場人物はおしなべてTrust がないです。マリアの母親は愛情が薄く、マリアをコントロールし搾取します。しかも死んだ父親への愛もなく「20年間無駄だった」と言ってのけました。マリアと出会い惹かれていく暗くて凶暴な男マシューの父親も息子を虐待しています。妻がいないため寂しいのでしょうが、適切に息子に関われない。マリアとバス停で出会った中年女性も人生を悔いていました。
 本作では誰もが偽りの人生を生きており、空虚を抱え、その結果誰も信頼できなくなっているのです。というか、偽りの人生を生きると信頼の概念がそもそも育たないのだと思います。

 しかし、マリアとマシューの間には、信頼の芽らしきものが生まれます。マリアもマシューも偽りの人生を生きていた2人です。しかし、2人は出会いをきっかけにして少しずつ目を逸らしていた自分と向かい合おうともがき始めます。しかし、なかなかうまくは行きません。2人ともあまりにも守られる環境がなさすぎる。それでも物語は2人の絆・信頼をクールなトーンで描いていくのです。


 信頼とは何か。それは、自分の身を相手に委ねることが出来ることではないか、と感じます。本作でも、マリアが高台に登り、下にいるマシューに対して「受け止めて」と言って、後ろ向きの姿勢になって飛び降りるシーンがあります。受け止めたマシューに対してマリアは「今度はあなたの番よ」と問います。
 この時は有耶無耶になりましたが、この答えは本作のクライマックスで語られます。クライマックスはとても美しく力強かったです。
(クライマックスシーンを思い出すと、なぜかRed Kross の “Secret Life” がBGMとして脳内に流れます)

 愛している、という言葉はなかったように感じます(あったかも?自信がない)。とにかく2人はつながった。そして、互いに身を委ね、そのつながりを実現させたように思いました。それがTrust なのだと感じています。ベルイマンばりに神なき世界を生きる中で、2人のTrust はとても尊く、美しかったです。


【追記】
 ロングアイランド・トリロジーで本作だけレビュー数が少ないです。おそらく、ジャケットが悪いからなのでは、と想像してます。他の2作品に比べて、ジャケが明らかにダサい!3部作の中で最も内容が濃い作品なので、もっとイカしたジャケに変えてほしいです。
ハートリー作品はオシャレさも大事ですからね〜🌹

【さらに追記】
 考えれば考えるほど、本作はタレンタイムレベルに迫る傑作でして、スコアを上げました。マリアの高台から後ろ向きにダイブするシーンは、自分にとってTrust を体現するものになりました。
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