トリッキーな映画技法と「書類食い」の謎──ナポレオンの少年時代からイタリア侵攻までを描く歴史絵巻。オリジナル版は12時間あったらしい。今回鑑賞したのはフランシス・フォード・コッポラ総指揮の4時間の復元版。今年のカンヌのクラシック部門で7時間版の修復版が上映されてたけど、日本でも公開してくれないかな。ポルトガルでは公開されてるって7月にペドロ・コスタが下高井戸シネマに来た時に言ってた。
「トリプル・エクラン」と呼ばれる3面スクリーン、パラパラ漫画みたいな高速編集、カメラを人々の頭上でブランコさせる撮影などのテクニックは面白い。同じく映画技法の宝庫のサイレント巨編といえばグリフィスの『國民の創生』があって、あちらは今でも使われているテクニックばかりで逆にすげーやつだが、ガンスの『ナポレオン』はトリッキーすぎて既視感ゼロですげーって感じ。
物語的には、ダントン・マラー・ロベスピエールあたりのフランス革命期の諸エピソードにも結構時間を割いて触れており、リドリー・スコットの『ナポレオン』(2023)と比べるとナポレオンの人柄や心情ではなく史実とプロパガンダ性に寄せた内容となっている印象があった。そのせいか若干ナポレオンが何を考えてるかわからない感じはした(ジョセフィーヌ大好きってことはわかった)。冒頭30分くらいで、雪合戦の雪玉、羽毛布団の羽根、ラ・マルセイエーズの歌詞が書かれた紙が宙を飛び交う。噴出するエネルギーと合戦の予感。そういえば後半に出てきた「書類食い」って何?事務係がロベスピエールによるナポレオン提訴を揉み消してくれるシーンで「幸運にも書類食いを自任していた」みたいな中間字幕のあとに書類をパクパク食ってたんだけどwww
クロースアップが役者の顔貌を効果的に捕らえる。今回のナポレオン役のアルベール・デュードネは『パルプ・フィクション』のユマ・サーマン似の美形。ロベスピエール役の俳優の性格悪そうな顔も良い。油そば鈴の木を思い起こさせるサングラスしてたけど実際のロベスピもかけてたのかな。また監督のアベル・ガンスがサン=ジュスト役で出演していて、人を殴りそうなイケメン顔だった。
そんな感じで面白く観たけど、アベル・ガンスは『鉄路の白薔薇』のほうが100倍好きだ。
【死ぬまでに観たい映画1001本(第五版)】
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