純

ストップ・メイキング・センスの純のレビュー・感想・評価

5.0
こんなデタラメな秩序が、こんな刹那的な永遠が存在するなんて。全ての音が、その一瞬のタイミングと感情の高まりによって生み出されているのに、完璧に計算されているような美しさとバランスを保っている。空気が震えるって、きっとこういうことなんだと思う。全身全霊で夢中になるって、きっとこういうことなんだ。

今作は、70年代に結成したロックバンド、トーキング・ヘッズの躍動感と熱気に溢れた最高のライブ映画。恥ずかしながら、私は『20センチュリー・ウーマン』を観て初めてまともに彼らの曲を聴いた身だけど、もうにわかとか長年のファンとか、そんなのもみくちゃになってしまうくらい聴衆は胸を鷲掴みにされてしまうだろう。高鳴る鼓動を抑えられず、きっと身体が自然とリズムを刻みだす。全身をめぐる血でさえ踊りたがっているような、体の内側から湧き出すエネルギーと熱にうなされてしまえる。

音楽は良いなあと思う。私はバラード大好き少女で(もう少女って呼び名はふさわしくない年齢かもしれない)、先述したようにトーキング・ヘッズの曲はこれまでに聴いていなかった。確かに、勿体無いことをした。10代の頃にもし知っていたら、という悔恨がないわけではない。でも、彼らの魂揺さぶる音楽に今会えたということ、その事実を私は素直に喜びたい。今彼らの曲に痺れた事実がある以上、今この時代、学生生活最後の夏を迎える私が、映画を通してトーキング・ヘッズと出会ったこと、2017年夏が私と彼らの交錯地点であることを、誇りに思っていたい。きっと、長年のファンは自分の青く向こう見ずなあの頃を蘇らせていて、当時の彼らと同い年の私が、時代を超えて魂を揺さぶられていた。そんな奇跡を起こせるんだから、だから、音楽は最高だなあって、私は思う。音楽は良いなあと、心から思う。

映画、本、絵画、音楽。いろんな形の芸術がある中で、優劣関係は存在しなくても、自分と1番一体化するものは何かと言えば、私は音楽な気がする。ただ受け止めるだけではなくて、自分の中に染み込ませていく感じ、自分と一緒に鳴らしていくあの独特な感覚は、音楽ならではのものじゃないかな。私はライブに行ったことはないけど、ライブって、あんなに儚いのに強く眩しい空間なんだね。曲が終わるごとに近づく別れは明白なのに、あの永遠に続くと思える絶対的な高揚感は、一体何なんだろう。この場所だけは現実と切り離されているような特別感、でも絶対に現実であるという安心感とそれに伴う喜び。良いなあ。何だか、本当に幸せなことしか起きないような、一生のうちできっと何度でも飽きずに思い出したくなるような、かけがえのない1日になるんだろうなあ。

どの曲も素敵で魅入ってしまったけど、個人的には特にThis Must Be The Placeに惹かれた。「場所」の尊さを感じることが増えたからかもしれない。幸せって「このひととこの場所に、あのひとたちとあの場所にいられる」ことなんじゃないかと思う。share the same space for a minute or twoという歌詞が本当に素敵で、誠実で、胸がいっぱいになった。このひとと共有したい場所、あのひとたちと一緒にいたいあの場所、そういった場所が、人々の居場所になっていくんだろうなと、何だか今の自分にすごく響くものがある歌だった。今だからこそ響く歌。

映画自体とは離れるけれど、元立誠小学校最後の上映作品であるこの映画を観られたこと、本当に幸せに思う。確かに部屋は暑くて映画館らしからぬ環境ではあったけど、この映画にはぴったりだったし、お客さんも不満は言わず、スタッフの方も最後まで気さくで楽しげな雰囲気だった。最後だからってしんみりするんじゃなくて、映画を120%輝かせる最高のパフォーマンスを、元立誠小学校全体で、私たちに提供してくれた。数は少ないけれど、ここで映画を観た日のことを本当に愛おしく思う。私にとって、この古びた映画館も、あのひとたちとほんの少しで良いからもう1度足を運びたい大切な場所だった。1分でも2分でも良いから。それでも、きちんとこの場所に別れを告げられたこと、最後に最高の思い出ができたこと、2017年夏を語る上で欠かせない1日を過ごせたこと、これらのことに、心からお礼を言いたい。今までお疲れさまでした。本当にありがとう。移転先ではきっとまた違う思い出が作られる。それを元立誠小学校での思い出と比べるのは、無意味だし野暮だ。移転先でのこれからも、私はとても楽しみにしている。でも、それは元立誠小学校という映画館を忘れるという意味ではなくて、きちんとした形で卒業するということだと、言わせてほしい。記憶は色褪せていくだろうけど、私はこの映画館を卒業したという事実、それだけはきっと永遠に、忘れずにいられると思うよ。そして、大切な思い出のことも、忘れるまで、ずっとずっと覚えているって、約束する。
純