あーさん

素晴らしき日曜日のあーさんのレビュー・感想・評価

素晴らしき日曜日(1947年製作の映画)
4.0
世界の黒澤を観よう!第2弾

なんと、、この企画の第1弾を観てから2年近く経っていた。。
忙しかったり、今ひとつ気持ちが向かなかったとはいえ、2年はひどいな。

理由はわかっている。
黒澤作品は、総じて尺が長いのだ。。
そこまで多忙を極めている訳ではないが、心に余裕がないと長い作品はしんどい。
…というので結局私がチョイスするのは、120分以下の物がどうしても多くなっていた。
同じ理由で観ようと思いながら観れていない作品、多いなぁ。。
数を減らしても今年は少しずつ、そういう作品も観ていきたいと思う。


さて、黒澤作品の中でも短めの今作。
有名どころの作品とは少し趣きが異なり、黒澤作品にしては、若者の純愛を描くこじんまりした小品。
しかし、とても深いメッセージ性を秘めた、隠れた名作なのかもしれない。
70年前の映画を観てこれほど心が揺さぶられると思わなかった。

終戦後間もない1947年の作品である。
まだまだ貧しい日本。モノクロの映像に映し出される雑然とした街並みや人々の暮らし。ヤミ市、復員、満員電車、リンゴの唄、、端々に戦後の生活の苦しさを思わせる言葉。
希望さえ失わなければ、、と思うが、どうやって生きていこう…と途方に暮れていた人も多かったことだろう。


雄造と昌子、という若いカップルのとある日曜日のデートを追った話なのだが、、
タイトルのような素晴らしき日曜日を想像していたら、いつになっても素晴らしい雰囲気にならず、気持ちが膨らんでは何度もペチャンコにされるような出来事が起こり、、

手元に少ししかお金がなくても、穴のあいた靴を履いていても、"何とかなるわ!楽しいこと探しましょう!"と楽観的で明るい昌子に対して、戦争で受けた心の傷もあってかどこかヤケになってしまっている雄造は、些細なことで"どうせダメだ"、とすぐ後ろ向きになる。リアリストな上に繊細だから、フォローしても何だかんだ理由をつけて落ち込んでしまう…。
世の中の価値観がガラッと変わり、男が自信をなくすとこうも弱くなってしまうものなのか。。
切ない。
しかし、昌子は決して諦めない。
素晴らしいのは昌子!貴女だ!!

ラストに向けて、彼女の心からの応援を受けて、雄造が奮い立つ場面。
長回しでそれはそれはとても長いのだけれど、

ここは好きだなぁ。。

これはその時の黒澤明が一番伝えたかったことじゃないだろうか。

敗戦で焼け野原で何もかも失くした日本人達に、ペチャンコにされてもされても立ち上がれ!希望を捨てるな!と。。

雄造は本当に何度も何度も挫けそうになって、膝をついて倒れて、でも昌子の声に押し出されて、、その繰り返し。
でも、自転車に初めて乗る時みたいに、何度も何度も何度も倒れているうちに、いつしか前を向いて走れるようになるんだ。。
昌子の絶唱が、心の奥の深いところに残る。

それから、もう一つ私が忘れられないのは、昌子が雄造の部屋に行った時雄造の気持ちもわかっていて、自分も彼を愛しているのにどうしても体を許せなくて泣きじゃくるシーン。
本当に純粋で清らかな昌子の心の美しさに涙が溢れて止まらなかった。。
その後、二人してオイオイ泣くのも何だかかわいらしくて。

一つ一つの二人のセリフや行動が、観終えた今となっては、愛おしくて、噛み締めたくなる。

ささやかな暮らしの中にポッと灯る明かりのような、そんなカップルがいてもいいじゃないか。。

こんなに貧しい時代からじっくりじっくり積み上げて、今の時代があるのだなぁ、としみじみ思った。


…幸せって何だろう?


ふと立ち止まってそんなことを考えさせてくれる今作のような映画が、やっぱり私は好きだ。
あーさん

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