O次郎

探偵スルースのO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

探偵スルース(1972年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

1972年英製ミステリー。
富豪の老推理小作家が、己の妻と不貞を働いている美容師の色男を屋敷に招待し、妻をくれてやる代わりに狂言強盗に協力するよう提案するが...という滑り出し。
色男を演じていたマイケル=ケインが今度は老小説家側を演じた07年版のリメイクも有るようだが、評判は断然こちらの方が上々なようで。

二時間弱という長尺ながら、画面に登場する人物は二人のみ、場所は富豪の邸宅のみ、という密室劇の一種だが、それを感じさせない映像の力たるや見事、というところ。
ミステリー映画愛好家の中でも屈指の名作とされているだけあって、二人を演じるマイケル=ケインとローレンス=オリヴィエの時ににじり寄り時に突き放す心理戦は素晴らしいのだが、彼等二人以外の「登場人物」の存在感の妙をより推したい。
特に素っ頓狂で不快な笑い声を上げる船員ジョリー=ジャック=ターのカラクリ人形は持主たる老小説家の内心の悪趣味ぶりと作品全体の不穏さを効果的に表している。
マイケル=ケインが扮装するクラウンの醜悪さも然り。
こうした小道具類の古めかしさと無粋さもオリジナル版の評価の高さに相当程度貢献しているのではなかろうか。

そして物語だが、妻を寝取られた老富豪の手酷く陰湿な仕返しと侮蔑に対し完敗したかに見えた若いプレイボーイが、中盤から思いもよらぬ猛反撃に転じていく...。
まるで「ミステリーとはこういうもんだ!」とでも言いたげな、どんでん返し展開の醍醐味のお手本のような味わいである。

それにしてもこの作品を観終わってつとに感じるのは、伝統的英国人気質の業の深さ。ゲームとプライドが何よりの生きがい。
狂った「ゲーム」に敗れた側が己の誇りを踏みにじられて憤懣やる瀬無く暴力装置に頼り、悲劇的な結末を迎える...。
キリスト教の七つの大罪をモチーフにした連続殺人がテーマのD・フィンチャー監督の『セブン』も思えばそんな結末か。
今日日の時代でも、己のちっぽけな自己承認欲求というプライドを満たすため、「新人」という会社の財産を「指導」の名目でいたぶるパワハラ上司は何処にでも居る。
人間のプライドってホントに恐ろしい。

それにしても、最後に声を大にしてツッこみたいのがこの邦題『探偵/スルース』。
作品としての完成度の高さに対してそのまま過ぎてあんまりというか......「総統フューラー」ばりのネーミングの適当さでタツノコプロもビックリじゃなかろうか。
O次郎

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