実業家の息子を連れ戻すためにイタリアでの豪華な日常に足を踏み入れた言葉巧みな青年自らが招く悲劇を描いたクライムサスペンス。
私の映画人生の中でここまで緊張感が伝わってきた映画は他にないと思う。マッド・デイモン演じるトム・リプリーの非人道的な噓の数々を悪と思うどころかどうか噓を貫いてくれとまで思ってしまった。物語が進むほどにリプリーに幸せになってほしいと思う気持ちが強くなっていった。リプリーがどんな噓を口にしようともなぜかリプリーを悪だとは思わなかった。結末はひどく残酷なものだった。リプリーに幸せになってほしいと思うのはもしかしたら自分の重なるところがあるからかもしれない。誰かを陥れてでも幸せになろうとするところが自分にもあるのかもしれない。ジュード・ロウ演じるディッキーのリプリーへの態度が腹立たしかったからかもしれない。ああいう人間が自分の周りにもいて自分が憎んでいるからかもしれない。リプリーとまではいかなくとも、自分も人を陥れる嘘をついてからかもしれない。久しぶりに自分の価値観や人生に影響を与える映画だったように感じる。リプリーの噓がバレそうに度に息苦しくて辛くなった。この映画は正真正銘の名作だと思う。すごい映画だった。