ninjiro

四月物語のninjiroのレビュー・感想・評価

四月物語(1998年製作の映画)
3.8
いい風が吹き込んで来る。
遠い向こうまで続く桜のトンネル、憂いの数だけ花弁は路面に降り注ぎ、小さな足取りにもつられて舞い上がる。幾つもある十字路、T字路、曲がり角、湾曲した道、通り道ごとに違う場所へと誘い、また戻っていつか来た道。引き摺る様な足取りも、見上げればその眼は真昼の半月のように明るい顔。
子どもらの纏う季節外れの厚手の冬服も、変わらぬ顔をして行き交う働く人の顔も、立ち止まって歩き歩いては想う人の影も、開く古本の1頁も、一様に染め上げる季節の香り。吹き込んで来る風に乗って君が見たこともない街がいつか読んだ古本の世界のように燦燦としたいつもの街に変わるまで、暫くは変わることのない今日。頼りなく立つ両の脚にはたはたと絡むスカートの裾は繰り返し、繰り返し、武蔵野の、四月の風の通り道。
夜は帰り道、月明かりを反射して足元はスニーカー、白くぼんやりと季節を揺らす熱を持った静寂、私の明日、これまでこれから、眼に映るように澄んで耳に映る。しんしん、閉じた目蓋を揺らす走り出しそうな振動、ブツ切れに遠い空まで響き渡る。頼りなく、遠くから、追い風、優しい風。帰ってくる風、あそこから、向こうへ、吹き抜ける。
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