父母ともに癌

陸軍残虐物語の父母ともに癌のレビュー・感想・評価

陸軍残虐物語(1963年製作の映画)
4.7
戦争末期、召集された中年初年兵。上官にいじめられ、先輩と友情を結び、妻を愛した故にその身に起こった切ない悲劇。

超面白かった。
男が墜ちていくのってドラマがあってよく映画のテーマになる。
僕の好きな映画で言えば「仁義なき戦い広島死闘編」やら「リチャードニクソン暗殺を企てた男」「フォーリングダウン」などなど。
この手の話ってなんでこんなに魅力的なのか。
結局全部自殺や自殺に近い死に方で死んでいく彼らの生き方になぜこんなに引かれるのか。
一線を越えた彼らに。
多分誰の身にもストレスってあって、それでも全うな方向へと生きようとしている。
でも破滅願望もあって、ああ、もう、いっそ、くそっ、そんな時に一線を越えてしまうこと、そしてそこから発生する破滅を彼らが演じてくれることへのカタルシスがあるんだろうと思う。

この話もその手のカタルシスがある。
でもそのカタルシスに至る重層的な構成が素晴らしい。
悲劇の連鎖は愛や仁義から発していたり、軍という特殊性が加味されたり、悪が悪たるのに同情すべき理由があったり。
全てが過不足無く伏線になって破滅的な悲劇へと収束していく。

全部がとても素晴らしい映画なんだけど、書きたい部分だけ。
演技、悪役の西村晃、ちょっとあり得ないくらい素晴らしい演技。この役無茶苦茶難しいと思う。同情に足る理由がある悪役なんだけど、ラストのカタルシスを全く邪魔しないような徹底的な小悪党ぶり。彼の最期は残酷で美しいカタルシスを生む。しかし見終わった後に考えるのはやはり彼に降りかかった悲劇だ。彼が生きなければならなかった悲劇について考えてしまう。これを演技で成しているんだからスゴい腕だ。最近大好きだな、西村晃。
三国連太郎はデカ物のバカ。墜ちていくフォレストガンプって感じ。終始愚鈍なんだけど、ラストの絶叫は涙が出る。愚鈍な演技をして鼻につかないってことは結構大変なことなんだと思うけど、上手にやっているんだと思う。山芋食うシーンとか最高。汚い。

撮影もいい。変なズームとか。気持ちいい。
便所のシーンは白黒で本当に良かった。

この映画では発狂が数多く描かれるけど、恐ろしいことにその発狂の全てが納得が行く。発狂を連ねて映画にしているようなものだ。
軍隊が生み出す発狂。恐ろしい。
父母ともに癌

父母ともに癌