垂直落下式サミング

陸軍残虐物語の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

陸軍残虐物語(1963年製作の映画)
4.0
軍隊とは、星の数が一つ違うだけで天と地ほどの差があり、下のものは上が命じたことに絶対服従の世界だ。この作品のような事件が戦時中の軍隊のなかで起きた事実があるのか、あくまでフィクションなのかは分からないが、このような残虐物語と言うべき事件が日常茶飯事ならば、やはり、まともな人間は理性を保つことが厳しく、帝国陸軍という組織はかなり酷い環境下にあったのだと推測される。
新兵ものとして、『兵隊やくざ』のようなエンターテイメントとしての派手さ痛快さはないので、とりたてて際立ったところはないのだが、初年兵の目線を通して、人間のせせこましさや、狭量さ、意地汚さをこれでもかと見せつけられるヘビーな100分間だ。
三國連太郎が何をやらせても上手くできない初年兵の役を演じており、ドジでグズだが憎めないこの男に同情して味方をする同期の好青年役を中村賀津雄が演じる。このふたりに焦点が当てられる。
対して、主人公をいじめる嫌味な班長を西田晃がこれでもかと憎々しげに演じており、これがまた主人公と同時にみている人の怒りの対象となって、悪役として観客の憎悪を一手に引き受ける素晴らしい役まわりを担っていた。
上官に何を言われても耐え続ける主人公だが、耐えがたい仕打ちを受けて、ついに頭に血がのぼり、上官を殺害し脱走を決行し家に逃げ帰るのだけど、そこでさらに救いの無い悲劇を知らされて、そのままクライマックスとなってしまう。
そんな状況に到るまでの過程が実に丹念に積み上げられていて、すべての登場人物の行動にそうせざるを得なかった道理があるのだということが描かれるため、どうしようもない無情感がやるせなさとして押し寄せてくる。
みている間ずっと「人が人の上にたつ」という当たり前のシステムの在り方それ事態に疑問を投げ掛けられているようで、登場人物の怒りや疲弊が伝わってくるような作品だった。