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カクトのsingerのレビュー・感想・評価

カクト(2002年製作の映画)
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伊勢谷友介は好きな俳優だったし、Filmarksの出演作のレビューでも、
何度かそれを書いてきたということもあって、やっぱり今回の件について、自分なりの想いを綴っておくべきかなというのがあって、今回は書くことにしました。

是枝裕和監督の初期作品である、「ワンダフルライフ」、「Distance」で初めて伊勢谷友介を見て、決して上手いとは言えないものの、それでも驚く程等身大で、自然な演技をする役者さんだなぁと思って、とても強い印象を受けたというのが、最初のきっかけでした。
その後、興味を持つようになって出演作を見るようになり、初監督作の「カクト」では、監督としての側面を見る事が出来たし、芸大出身で様々な芸術への造詣の深さを知る事が出来たり、2009年に彼が立ち上げたリバースプロジェクトでの社会活動を追ったりする事を通じて、同世代として、とても刺激を受けていたし、シンパシーを感じていたので、自分の中では俳優の枠を越えた人物として存在していました。
後、個人的な話ですが、2012年に自分に第一子の娘が産まれた時に、偶然だとは思うけれど、Twitterにお祝いのコメントを貰った事がとっても嬉しくて、自分の中では好感は持ち続けていたし、最近も出演作は積極的に鑑賞するようにしていたし、ずっと応援していました。

そんな中での今回の逮捕の一報。
驚きはあったけど、そこまでショックでは無かったというのが正直な所で、
嘘であって欲しいと思う反面、どこかで何か予感めいたものはあったので、
ただただ残念だなぁという思いが、ずっと心につっかえてる感じです。

それでも、やっぱり今回の件で、伊勢谷友介に対する気持ちは離れてしまったように感じる部分はあるし、しばらくは出演作もかつてのように観返したりも出来なくなりそうな気がするけど、
「挫折禁止」を座右の銘としてきた伊勢谷友介が、これからどのように今回の件と向き合い、乗り越えていくのか、そして、いつかまた映画の世界に、姿勢を正して戻ってきてくれる事を、やっぱり期待したいなと思っています。

🎦ここからは、2008年12月25日にブログに投稿した、初監督作「カクト」のレビューです。
しかし、この作品の時点で、今回の事件に違和感を感じさせないようなストーリーや、台詞、人物描写が、既に見て取れるような気もしてたり・・・。
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今年に入って、出演作を色々見ているうちに、興味を持つようになった俳優が伊勢谷友介なんですが、
その中でも彼が脚本と監督を務めた「カクト」について触れないわけにはいかないでしょう。
この作品は、観た後で後悔したタイプの作品だったんですよね・・・。
それは、内容が面白くないとか、時間を返せみたいな蔑んだものではなく、
「なんでもっと前に観ておかなかったんだろう・・・」という後悔。
作品自体がその時代のユース・カルチャーと深い繋がりがあるだけに、
リアルタイムでしか味わえない肌触りが確実に在るように思ったんですよね。

何か「トレインスポッティング」に近いかも。
自分はあの映画をリアルタイムで観たので、凄く影響を受けたし、
後追いでは感じられない時代とリンクした肌ざわりを感じたんですよね。
この「カクト」には、そんな雰囲気に溢れている。
観ていて「トレスポ」へのオマージュのように感じられるシーンも沢山ありましたし。

冒頭、リョウが街を全力で走るシーンは、レントンを彷彿とさせるし、ドラッグとの関わりが深い物語とか、トイレのシーンとか。

他にもウォン・カーウァイやクウェンティン・タランティーノが活躍した90年代映画を総括しているような要素が沢山あって、
時代の息を吸って、ひとつの解釈と共に吐き出したような、そんなオン・タイムの息遣いが感じられたんですよね。

個人的には登場人物のセリフがカッコ良くもあり、ちょっとダサくもあったりで印象的でした。
普通の会話を作品の中で見せるのって凄く難しいと思うし、ストーリーの構成上でカットしても良いような、
そんな談笑じみたものまで見せてる所に、若者たちのリアルを感じる所もあったし、
凄く紙一重の所で本筋を外さないように組み立ててあるのが上手いなぁと思いました。

キャストも今改めて見ると、渋い面々が揃ってて、加瀬亮がここまでキレた演技してるのも今では見れないポイントだし、
寺島進や香川照之という邦画を代表する俳優も顔を並べているし。
若手だと、伊藤淳史なんかも出演しています。
主演は伊勢谷友介で、年齢的に一番カッコ良かった頃なんだろうけど、
敢えてパンツ一丁でコンビニに入るシーンがあったりするのも良かったですね。

後、この映画はサントラもカッコ良いんですよね。
当時はまだアンダーグラウンドな存在だったトランスにも早くから着目してるし、
トリップ・ポップやヒップ・ホップといった当時は先鋭的だったサウンドの要素が沢山散りばめられている。
限定1000枚で、そこらじゅうで品切れになっている貴重盤なので、作品が気に入って興味がある人はすぐに購入をお勧めします。

初回版のDVDには、カクトの世界をイメージしたアート・フィルム「Memory Of Document」が付いてます。

【カクトとは】
目覚める人、目覚める都市の意味をもつ、伊勢谷友介による造語。
僕らが何か自分自身の小さな変化に気づくことができたら、それは未来への大きな変化に繋がる。
そしてそれが集まり、大きな力になっていくとき、それは都(文化)も変えていく力になっていく。・・・それがカクトです。

もう、公開から早6年。
そろそろ監督としての新しい作品も観てみたいなぁと思いますね。
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