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メランコリアのyuiのネタバレレビュー・内容・結末

メランコリア(2011年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

投げ捨てられた希望の花束。
ウエディングドレスのオフィーリア。
「憂鬱」が導く世界の終末と、等しく絶対的な死を迎える2人の主人公の対照的な姿を描く。冒頭の幻想的なシーンがアート的で美しい。

花嫁は自らの結婚式で、あるきっかけから精神的に不安定な状態となり、非常に身勝手にふるまい周囲の人間を困惑させる。そんな式を終え、姉家族との生活をはじめたその時、地球に惑星メランコリアが接近していた。


生への葛藤と苦しみを抱える人間でも、自らの手でひとり死ぬことは恐ろしい。
愛しいと思えない人生も、思い残す愛着も、自分がいなくてもきっと変わらない世界も、すべて共に消えて無くなるならば、そんな死すらも愛しく思うだろう。
解放される喜びの中で映る世界は美しい。すべてに等しく訪れる死は救済だ。

人生を愛して生きてきた人間には、自分の命だけでなく何もかもが失われてしまうことが恐ろしい。
愛しい人、自分が生きた証、大切な息子の未来、この世界のすべて、幸せな今。突然抗えない現象によって宇宙の塵と消える絶望感、潜在的な無への怖れ。
死の悲しみの中で惜しむ世界は美しい。惑星の影に散ることは絶大な恐怖だ。

幸福を恐れ自ら手放す妹。
幸福を願い生を愛する姉。
地球が「憂鬱」なのか、惑星メランコリアが「憂鬱」なのか。
それは憂鬱を終わらせるものなのか、または憂鬱そのものか。

でも、妹にはビーンズの数がわかった。
存在しない19番ホール、橋を渡らない馬、閉ざされた世界、浮かんだキャッチコピーは「無」…
精神を病むものが必ず一度は抱くであろう破滅願望。
もしもこの幸せを失ったら。
幸せをつかむことすら恐怖で、パートナーとの関係も、幸福を手に入れる儀式でさえも、ひどい振る舞いで台無しにしたい、何もかもうまく行かなければいいのにと妄想する。幸せに怯える自分自身を落ち着かせるための破滅的思考だ。
それは本意ではなく、本当は幸せを捨てたくない、そんなに悪いことは起きない、起こしたくないという自分自身への説得だ。
最悪の状況を想像することで楽になれる。
つまり世界が消滅したのは彼女の妄想の世界での話なのだろう。
この妄想自体がカタルシスとなり、彼女の本当の世界はこれからも続く。
ハッピーエンド。
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