微笑

ベイビー・オブ・マコンの微笑のレビュー・感想・評価

ベイビー・オブ・マコン(1993年製作の映画)
4.5
グリーナウェイの空間設計の真骨頂を観た。
絢爛豪華なセットを縦横に捉えるキャメラや、大量のエキストラそれぞれに振り付けを施した演出は相変わらず。
ただ、今作ではセットが様々な顔を見せるため、演劇的なる空間と、映画的なる空間との往復が実現している。これが本当に凄まじかった。序盤、単純な切り返しを中心にカットを組んでいた為、これはまさかと思っていたところに、あの転換と移動撮影が来た感動。単純な切り返しを用いて明確に区分けされていた「第一段階」の「虚=舞台」と「実=大公などの観客」が、移動撮影によって綯い交ぜになるのである。
作劇と連動したことによる、ラストの衝撃も巧かったように思う。

で、以下そのラストについて、若干のネタバレ?を含んだ考察まがいを記す。





ラスト、観客席一同がキャメラに向けて礼をすることから、キャメラの捉えていた装置全てが舞台であったことが自明となる。
問題は、その折に聞こえる拍手喝采。
キャメラに向いたお辞儀が、我々に向けたお辞儀なのか、それともそこに「真の観客」があるのか。
しかしあの惨死の真偽判断に当たって、拍手喝采が明らかにフレームの外から聞こえることを考えると、酷く後味が悪い。
芝居の陰湿な舞台裏を、我々観客は神の視点たるキャメラで見つめていたのだから。
芝居の主題を「搾取」とするならば、ここでは現実の死や暴力さえもが物語として「搾取」されているという皮肉が伺える。無論、その矛先は我々=現実の観客に他ならないだろう。




とまれ、いつものグリーナウェイ節に加えて、代表作の『コック-』も凌駕しうる空間演出もとい空間設計が素晴らしい作品であったことに違いはない。
私的には、清貧を騙る教会の陰湿さを示す描写が、皮肉に満ちていて面白かった。
微笑

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