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マタンゴのhorahukiのレビュー・感想・評価

マタンゴ(1963年製作の映画)
3.9
キノコの姿をしたバルタン星人が襲いかかってくる邦画ホラー。

あらすじ…
船でバカンス中の若者たち。突然嵐に襲われる。転覆はしなかったが、船はボロボロで操縦も助けを呼ぶこともできない。そんな中流れ着いた謎の無人島。そこでボロボロの船を見つけるも中は苔とカビだらけで誰もいない。助けを待つ若者たちだったが、次第に内紛が起こり始め…という話。

『マタンゴ』というタイトルですが、物語のメインは極限状態に置かれたために利己的な本性を露わにした登場人物同士の醜いイザコザ。会社の社長、大学教授、歌手、作家など立派な肩書を持った人たちですが、その肩書が通用しない世界に放り出されたらどうなるか。島には一切食料がなく、唯一あるのは難破船に残された缶詰だけ。限りある食料の中、脱出のために協力しなければならない状況にもかかわらず、仲間よりも自分優先の行動をし始める人々。

そんな中、マタンゴが人々を誘惑する。マタンゴというは無人島に生える新種のキノコで、難破船の記録によると船員を破滅に追いやった原因だとされている。理性を保ってる間は誰も手にしないけど、崩壊していく理性とともにマタンゴの誘惑が次第に強くなっていく。

マタンゴというのは禁断の果実。そして人の心の弱さの象徴だし、利己的な心の象徴でもある。マタンゴを食べる食べないの葛藤は、残された理性と膨れ上がる利己心・心の弱さとのせめぎ合い。なのでマタンゴの誘惑に負ける=利己心に屈することで、面白いのはそれにより無人島に順応できるということ。そして最終的には日本こそが利己心にまみれたマタンゴだらけの無人島だというメッセージを突きつけ、観客をこの物語の当事者に仕立て上げて幕引きとなるあたりがとても良い。

クライマックスの襲いくる化物との対決は、精神世界での戦いの暗喩でしょうね。ビジュアル的にも、幻想的なのに嫌悪感を感じる不気味な空間を作り出していて見応えがあるし、何より「せんせぇぇ」の病的な気味の悪さと相まって唯一無二な恐怖シーンになってるように思います。

セリフの説明に頼りすぎてたり、演技とか演出が大げさでスマートじゃない部分はありますが、そういうとこすら魅力で愛おしく感じる作品です。大好き♫
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