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マタンゴのHKのレビュー・感想・評価

マタンゴ(1963年製作の映画)
3.9
ウィリアム・H・ホジソン原作の小説『夜の声』を原作とした日本の特撮怪奇映画。監督は『ゴジラ』などの本多猪四郎。キャストは久保明、土屋嘉男、小泉博などなど

ある日、豪華なヨットで海に渡航していた若い男女七人が、嵐に遭って難破し、とある無人島に漂着してしまう。そこはカビとキノコに覆われた孤島であった。初めは理性的な男たちも、段々と無人島生活に疲れ果て、仲間割れを起こし、狂気に落ちていく。

大学教授や社長の息子、作家に売れっ子歌手など、それぞれ肩書がる由緒正しい人間たちが、無人島での慣れない生活に次第に焦燥感に駆られ、次第に各々の本性をさらけ出し、裏切りや殺し合いにまで発展してしまう。

この映画も一見ホラー映画のように見えて、実は都会の冷たい世界に染まっていく現代に対する鋭いアイロニーを含んでいる。そんな恐ろしいラストである。

ブルジョワ階級の各々の自尊心のみを気にする人間たちに対する盛大なアイロニーも伝えており、表面だけ着飾ってでいるだけで中身は何もない人間たちの愚かな姿を活写するという点において、ルイスブニュエルの『皆殺しの天使』やジャン=リュック・ゴダールの『ウィークエンド』にも通じるテーマ性も感じられた。

劇中ではマタンゴなる生物は終盤で大量に出てくるが、それまではあまり出てこない。しかし劇中姿を見せる半身のマタンゴが船内を彷徨い追いつめるシークエンスはトラウマ級。中の人が天本英世さんどいうのが気づけませんでした。

マタンゴとは禁断の果実、利己心の結晶である。登場人物たちははじめはこの危険なキノコを食べないようにして頑張るものの、次第に理性を失い食べてしまう。その結果、島の生活に順応が可能になるという皮肉な世界観である。

全員が自分勝手でありながら、唯一希望を捨てなかった久保明だけが、最終的に後悔する結末を迎えてしまうというのも皮肉。

『全員が全員、自分勝手なことしか考えていない』というテーマ性は、黒澤明の羅生門にも言える。そんな人間の本質を扱う作品が大好きな自分としてはとても深く心に刺さる映画でした。

マタンゴの声はバルタン星人。これが同じ円谷で上手く後に活用されるとはね。

会社の社長と社員の関係性が逆転するところとかもとても良かったですね。極限状態に追い込まれた人間が次第に狂気を帯びていく。特にうまかったのは太刀川寛さんですね。なんかナチュラルに猟銃で殺そうとするのは面白い。

それでいて、土屋嘉男さんの情けない演技も溜まりませんでしたよ。ガス人間とは大違い。久保明は相変わらずイケメン。

男5人に女2人ということで絶対にああなるとは思っていたけど、やはり女を巡った争いに発展するのもお約束と言う感じ。

いずれにしても見れて良かったと思います。星新一と安部公房はいずれ読んでみたい。
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