マヒロ

質屋のマヒロのレビュー・感想・評価

質屋(1964年製作の映画)
4.0
ニューヨークで質屋を経営する無愛想な男・ソル(ロッド・スタイガー)は、過去ホロコーストにより家族を失ったトラウマにとらわれ続けていた…というお話。

ロッド・スタイガーというと自分の中では『夕陽のギャングたち』の脂ギッシュなギャングの男の印象が強いんだけど、今作では全く真逆の気力を絞り切られたカスカス無気力人間になりきっていて凄まじかった。全編殆ど無表情な中で、ある一瞬見せる泣きの演技は見てていたたまれなくなるレベル。

彼が抱えるトラウマの描写も、フラッシュバック…というよりもはやサブリミナルのようにチカチカと挿入されるんだけど、決して全容が明らかにならない辺りが逆に生物の記憶のようで怖い。
あるトラウマに蝕まれ続ける人間がまともな生活すら出来なくなっていく様子を描く映画といえば、例えば『タクシードライバー』なんかがあるけど、ある種のカタルシスが用意されていたあちらと違い、ある行動により凍り付いていた心が少し氷解したようにも見えるし、それでいて更なるドン底へ突き進んでいくようにも見えるラストが恐ろしい。
人間性を取り戻すことと引き換えに、何事もない平和な(ように見えた)生活が失われてしまうというのは強烈な皮肉で、改めてホロコーストというものが残した傷痕の深さを感じさせられる。

ルメット監督は『狼たちの午後』でもそうだったけど、社会的メッセージのある映画を作りながら、説教臭くならずに映画としての娯楽性もしっかり併せ持った作品であるところが凄いなぁと思う。

(2018.29)
マヒロ

マヒロ