滝和也

質屋の滝和也のレビュー・感想・評価

質屋(1964年製作の映画)
4.0
心の牢獄。
閉ざされた心の闇。
現実を見る目を鎖す
深き心の傷。

十二人の怒れる男のシドニー・ルメット監督作品…

「質屋」

ありがとう、発掘良品。やっと見れましたよ(^^)。1960年代、絢爛豪華なハリウッド映画に対して、当時リアリティを追い、ヌーヴェルバーグに影響を受けたニューヨーク派。その代表となるのがこの作品。

ニューヨーク、ハーレムで質屋を営むナザーマン。やって来る貧しい客たちの顔すら見ず、冷静に質ぐさをとり、金を貸し付けていた。そこに感情は一切なく、まるで自らを外界と閉ざしている。彼はユダヤ人強制収容所(ホロコースト)の生き残りだったと言う深い傷を心に負っていた…。

ユダヤ人であること、そしてホロコーストの生き残りであること。その被害者であることのリアルを叩きつけられます。フラッシュバックを多用し、蘇る悪夢。妻子を奪われ、心を奪われた男。人、神への信頼を捨てた男の悲しい物語。あまりにも悲しく心にのしかかるその物語の重さ。まるで生きる屍であり、その死を感じさせる物語はリアルに溢れ、心に響きます。

アラン・レネの「夜と霧」のその後を描いたかのように、対になっているかのようでした。ホロコーストで死んだものの悲しみ、そして残されたものの悲しみ。ユダヤ人への長年の呪いを一身に背負ったナザーマンのキャラクター造形。外界への目を閉ざしていた男に更成る悲劇が襲うその恐ろしさ。唯一の外界との繋がりが…のラスト。まさにトラウマ映画です。

撮影もニューヨーク、ハーレムを中心にロケーションがなされており、その撮影はリアリティに溢れ、心を閉ざした男の孤独をより浮き彫りにしています。※当時のハリウッドはロケでなく、セットがメイン。わざわざ汚い風景をとるようなことはしなかったそうです。

またフラッシュバックするホロコーストの場面や過去は直接的ではなく、説明的でもありません。子供を抱え、ギュウギュウ詰めにされたユダヤ人、子供を落としても何もできない…シーンやナチス将官への慰安婦とされた妻の裸が金を借りに来て身体で払おうとする黒人の裸からフラッシュバックするシーンなどその後の直接的な酷いシーンをオミットし、連想させる演出になっています。当時のアメリカにあったへイズコードの問題はあったかもしれませんが返って悲しみをます印象です。※ただ女性の胸がでたのは初めてでヘイズコードを超えてます。

音楽はクインシー・ジョーンズ!そのジャジーな音楽は軽快でありながらも、悲しく重い物語に味を与えていました。またマイルスの死刑台のエレベーターを思い起こさせ、リアルな撮影手法と合わせヌーヴェルバーグの影響を感じます。

悲しみのユダヤ人を演じたのはロッド・スタイガー。夜の大捜査線での演技も良かったのですが、こちらも素晴らしい。心の傷を負っているナザーマンを前半は抑えた冷たさで、後半は感情的に見事演じていました。その感情が爆発するラストは必見です。

シドニー・ルメットは大好きな監督さんなんですが、今作もやはり意欲的で素晴らしかった。間違いなくアメリカン・ニューシネマへの影響も与えていますね。長年見たかった作品を発掘して頂いたTSUTAYAさんに感謝です(笑)
滝和也

滝和也