ある質屋に妊婦が結婚指輪を売りに来た。目には生気が篭っておらず、触れたら割れそうなほど疲れ切っている。
そんな曰く付きの妊婦に対して、顔色を一切変えずに「これはガラスだ」と言い放つ店主。
「そんな…カレはダイヤだって言ってたのに…」と一言呟きながら絶望した表情で店を後にする。
いろいろおかしい。
だが一番おかしいのはやっぱり店主の無感情具合。
他にもこの質屋にはいろんな事情を抱えて、泣く泣く宝物を持ってくる人がいるのだが、そんな奴らに一切の同情も情けも無く豆粒みたいな金額で宝物を買い取る。
「あっちの質屋では10ドルの価値があるって言ってたわ!!」
「だったら他所へ行け。俺の店ではそれは2ドルだ」
なにが目的なのか、なぜそんな無感情な性格なのか謎のまま物語はどんどん進行していくのだが、所々でフラッシュバックされるホロコースト。
どうやら主人公は以前ホロコーストにあい、目の前で妻子を惨殺されてしまったユダヤ人だった。
その時ちょうど彼は教授だったのだが、そんな不条理な世の中で勉学も地位もなにも意味がなかったと悟り、感情を殺してしまった。劇中で「金が全て」と明言するが、観てお分かりの通り金に対する執着心も全くない。
本当に無の存在としてずっと描かれていく。
しかしそこで弟子入り(?)みたいなのを勝手にしてる黒人の青年や人々の売り物を見て過去に抱いていた懐かしき感情が一瞬蘇る。
そしてまた再構築され自分の信念が貫かれたと思った矢先………これから先はもうクライマックスなので言えないですが、なかなか酷い映画です。
酷いと言っても出来が酷いではなく、性格が悪いということ。
個人的に一番強烈だったシーンはホロコーストの場面。
ナチスの1人であろう男の足の位置にカメラがあり、その男の股の先に主人公の奥さんが完全に諦めた顔で虚空を向き、全裸のままベッドに座らされている。
そしてゆっくりドアが閉まり、その男が部屋の中へ入っていく。次の場面には妻が死んでるという事がわかったという流れが恐ろしい。
シドニールメットらしい社会派ドラマ。