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質屋のRのレビュー・感想・評価

質屋(1964年製作の映画)
4.8
何てショッキングな映画だろう! ものすごく昔に一度だけ見たことあって、その時ひどくショックを受け、以来ずっと心に残ってたのだが、ソフトがなかったので見ることできずで、ようやく今日見れた。ある幸福な一家のピースフルなピクニック風景がスローモーションで描かれるオープニング。明るく美しい映像とノスタルジックな音楽でいい気分になってたのが、とたんにびっくりするくらい不穏な雰囲気に変わる。何が起こったのかはわからない…一体何が……で、陰鬱な陰鬱な本編が始まる。主人公のソルはスラム街で質屋を営んでおり、少しでも高く質入れしようと様々な品を持ってやって来る貧しい人々に、同情することなく当然の安値を突きつけ、どんな願いにもまったく聞く耳を持たない。感情を殺し、人を寄せつけず、ただ淡々と金を稼ぐことだけを行なっている。ってそれよく考えたら現代の資本主義社会そのものだね。陰影の深いダークな映像と、まるで檻のような質屋の内装が、ソルの心象を表しているかのよう。そんな彼の生活に、様々なきっかけで、パッパッとフラッシュのように、過去の記憶が閃く。それは25年前、彼が人生のすべてを失った、ユダヤ人強制収用所での忌まわしい記憶だった。度々蘇る鮮烈な記憶のせいで、あらゆる感情を封じ込めていた彼の心を、再び洪水のように恐怖が襲いかかる。前半は、てか、ほぼ全編かな、あれ?昔見たときあんなショックを受けたのはなぜだろう、記憶違いだったのかな?と思うくらい描写が淡白。強制収容所に関する映像も直接的な残虐描写はなく、何が起こったかを間接的にほのめかす程度。こんなんやったっけ?と思いつつも、幾度ものフラッシュから過去のシーンが一気にぶわっーと展開する演出にじわじわ心がやられていく。妊婦の指輪を見て収容所指輪シーンに移行するとこはすごかった。また、徐々に精神が乱されていくソルと周囲の人間とのいびつな関わりも興味深く、特に、子供達の未来のために資金を求めにやってくるソーシャルワーカーとのからみは非常に印象的。未来になど興味はない、人間は皆クズだ、意味があるのは金だけだ。そんな彼が、再び現実の残酷さに引き裂かれるラストシーン……あっ!!!と全身鳥肌がたった! 何ということだ!これだったのか! このラストにこそ、ラストのモンタージュにこそ、幼き私はショックを受けたのだ! それまで淡々と見てきたすべてのシーンが、それらの持つ本当の意味が、圧倒的な奔流となって一気に全身を駆け巡る衝撃!!! ……その後のソルのリアクションに涙を禁じることは誰にもできないだろう! もうどうにもこうにも取り返しがつかない。なんてことだ。何ということ。人生の一回性の真の恐ろしさに全身が痺れた。脱力した。あまりの衝撃にえーっ! えーっ! と思わず声出た。びっくりした。こんなびっくりする映画マジない。人間の感情が完全に人間を裏切るとき……痛すぎてたまらなかった、いたたまれなかった。ユダヤ人の歴史についてあまり知らない人は本作を見る前に、是非とも一通り勉強してから見ることをオススメしたい。きっと衝撃が何倍にもなるはず。ふつうに見てもすごいと思うけどね、むかしの僕がそうだったように。最後に、ソルを演じたロッドスタイガー、演技すごかった!
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