図師雪鷹

普通の人々の図師雪鷹のレビュー・感想・評価

普通の人々(1980年製作の映画)
5.0
1つの家庭の崩壊を描いたドラマ。
名優ロバートレッドフォードは、この作品で数多くの賞を受賞し、演技だけでなく、製作者としての地位も築いた。

主な登場人物は極めて少ない。まず、父カルビン、母ベス、次男コンラッドの三人家族。そしてコンラッドの世話をする精神分析医のバーガー。そのほか、コンラッドのガールフレンドなども登場するが、基本的に話を回すのはこの4人だ。
なぜ、コンラッドがバーガーのもとに通うのかというと、長男バックが水難事故で亡くなったのがきっかけで追い詰められていたからだ。自殺を図った経験がある。それに対し、亡くなったバックを溺愛していた母ベスはコンラッドを拒絶し、外の付き合いばかりしている。父カルビンは、深まるコンラッドとベスの溝を元に戻そうとするが、その溝があまりにも深く、結局何もできない。家庭は崩壊していた。
一見、地味な上に生々しく思えてしまうかもしれないが、登場人物の心理が気になり始めると、後を追わずにはいられない。


次男コンラッドの拒絶に対する感情が画面の外に伝わってきて辛い。彼は、拒絶する側にもされる側にもなる。恐らく、水難事故がもたらした後悔や罪悪感という感情が彼の心を大音量で揺さぶってきて、他人といると尚更それが強くなるから、それを抑えるのに必死なのだろう。
ただ、彼には救いが存在する。その救いというものもいつも得られるものではないが。だが、あるとき急にその救いは破られる。そこで一気に緊張さが増した。水。手首。鏡。死のメタファーが画面を横切り、観ているこちら側の心拍数をコンラッドと同じくらいまで引き上げる。私は、走り出す彼から目を背けるわけにはいかなくなった。

そして、ある寒い朝、このドラマは思いもかけない形で終わりを迎える。後味の悪さを残しつつも満足のいく結末に、心を打たれてしまった。エンドロールに消えていく2人のハグ姿がとても美しい。

こんな作品をいきなり生み出したロバートレッドフォードには頭が上がらない。
図師雪鷹

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