青山

普通の人々の青山のレビュー・感想・評価

普通の人々(1980年製作の映画)
3.9

長男を事故で亡くした両親と次男の三人家族がだんだんと崩壊していく様をじっくり描いた家族ドラマです。

イケメン俳優レッドフォードの初監督作品。とはいえ俳優としてのレッドフォードもほとんど見たことないので、そう聞いてもそこまでテンション上がらなかったんですけど、それはそれとしていい作品でした。

ほんとに、タイトルの通り長男を亡くしたという経験以外は丸っきり「普通の人々」であるところの一家三人の葛藤だとかを、次男のコンラッドくんを軸に描いているだけのお話なんですよね。特別にキャラが濃い人もいないし、起こる出来事もコンラッドくんがセラピーに通ったり女の子とちょっと喋ったりするくらい。あらすじだけ見ると本当につまらなそうな物語なんですが、なぜかめちゃくちゃのめり込んで観ちゃったんですよね。

なんでそんなに良かったかっていうと、やっぱ緊張感のある演出のおかげだと思います。
例えば、最初の家族の朝食のシーンが分かりやすいんですけど、ママがご飯を作るけど、コンラッドくんは「食欲ないからいらない」って言うんですよ。するとママがいきなりちょいキレでせっかく作ったご飯を捨てちゃう。そんな、反抗期の息子がいたりすればどこの家庭でも起こるような出来事のリアルさ。このシーンだけでこの家族の姿がだいたい分かってしまう素晴らしい導入です。
あるいは、コンラッドくんが以前精神科で知り合った女の子と再会するシーンで、病院を懐かしむコンラッドくんと、病院のことなんか忘れて今を生きようと言う女の子との微妙だけどヒリヒリと感じられる断絶。また、家族写真を撮るシーンなんかもヒリヒリ感がヤバイですね。
そういう、人と人の断絶が形を持って現れてしまう時のヒリヒリとした緊張感を描くのがとても上手くて、それが些細な出来事でもサスペンスのようなフックになって観ている私の心をクイっと捕まえちゃうわけです。

そんな風に概ねは人との、というかほぼママとコンラッドくんとの断絶を描いた暗い映画ではあるんですが、その中に少しですが優しさもまた強く描かれています。
それは例えば、突き放すようで実は親身になってくれてるセラピーの先生だったり、コンラッドくんとクラスの美少女とのにやにやしちゃうような青春だったりセイシュン!Yeah!、息子のことが見えていなかったけどそれを反省してきちんと向き合おうとする不器用なパパの決意だったり......。
そういうところに普通の人々の普通の優しさや普通の幸せがほのかに垣間見られるので、見終わった後へんにどんよりすることなく、爽やかとすら言える観後感がありました。

あと、はっきり言ってママは完全に悪役でクソ親という描き方がされているんですけど、最後の方でママはママなりに苦しんでいたのだなと分かるシーンがあって、それだけであのクソっぷりを全部許せるわけじゃないけどちょっと見方が変わるのも、この作品自体に通底する実は優しい視点が感じられて素敵でした。


最後にひとつ作中で特に好きだったセリフを。

「感情は怖いものだ。痛みを伴う。痛まないものは死んだも同然だ」

はぁ、良いこと言うぜ......。
青山

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