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普通の人々のGreenTのレビュー・感想・評価

普通の人々(1980年製作の映画)
3.0
シカゴ近郊に美しい一戸建てを持つジャレッド家の朝。お母さんが朝食を作り、お父さんはなかなか起きてこない息子を起こす。「あなたの好きなフレンチ・トーストよ」と言うお母さんに息子は「お腹が空いてない」と言う。するとお母さんはさっさとそれを捨ててしまう。

一見パーフェクトに見えるのに、腫れ物に触るようにギクシャクしているこの家族。

息子のコンラッドは悪夢を見たり、明らかになにか精神的な悩みを抱えている。父親のカルビンは心配しているようなのだが、母親のベスはコンラッドを嫌っているように見える。

どうも観ていると、ベスは弁護士の夫、スポーツ部で花形選手の息子、郊外の一戸建てにホームパーティ、ヨーロッパ旅行にゴルフと、自分の「理想の家族」以外の現実は受け入れることができず、心に傷を抱えるコンラッドを家族全員で支えて行こうというよりも、「こいつのせいで私の人生に汚点がついた」というような気持ちのようでした。

母親のそんな気持ちを察してしまっているコンラッドは、罪悪感に囚われているし、また親が望む以外のものになりたい、と思ったりしたら一発で否定されるという環境なので、自分がどうしたいのかさえもわからない。

お父さんは、親としてコンラッドをサポートしたいのだが、問題に蓋をしてパーフェクトな家族を装いたい妻に負けてしまう。

私はこのお話、崩壊していく家族を良く描いているなあと思うのですが、完全にお母さんのベスが悪者だなあとちょっとけげんに思いました。監督のロバート・レッドフォードもベス役のメアリー・タイラー・ムーアも、ベスのキャラクターは自分の父親を思い出させるとインタビューで言っているそうなので、ベスのような態度はどちらかというとこの時代の白人富裕層の父親に良く見られるタイプと思われるのに、ストーリーに仕立てる時は母親が悪者にされるのかなと。

まあ最近では、自分の権利ばかりを主張する白人女性に「カレン」という総称が付くくらいなので、お母さんが悪者ってパターンもあり得るとは思いますが。

それにこのお母さんは、「アメリカン・ドリーム」の犠牲者なのかもしれないなあとも思う。特にこの世代、女性の「人生が充実する」ってのは結婚して幸せな家庭を持つこと以外になかったのかもしれないから、それがガラガラと崩れていくのを受け入れられなかったのもしょうがないのかも。最後旦那さんに「オレのこと、今でも愛しているか?」って訊かれて、「・・・最初にあなたに対して感じた感情を今でも持っているわ」って答えるんだけど、「愛している」とは言わなかったから、きっと「あなたに対して感じた感情」ってのは「この人となら幸せな結婚ができそう」って感情だったんだろうなあって思った。

だって、そういう男を選びなさいって教えられてきたんだろうから。人を愛するとはどういうことかを教えられたのではなく。

なんか『ブルー・ヴェルベット』を思い出したよ。美しい郊外の家の庭の、しっかり手入れされた芝生の下には気味悪い虫がうじゃうじゃいる。アメリカって、こうして上部だけ繕っていることがすごい多いんだろうなあって。
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