タケオ

グリーンマイルのタケオのレビュー・感想・評価

グリーンマイル(1999年製作の映画)
3.7
 スティーブン・キングの小説をフランク・ダラボン監督が映画化したときくと、やはり思い浮かぶのは『ショーシャンクの空に』(94年)だろう。本作『グリーンマイル』(99年)の舞台も、『ショーシャンクの空に』と同じように刑務所である。『ショーシャンクの空に』の主人公は冤罪で投獄されてしまった囚人だったが、本作の主人公ポール(トム・ハンクス)は看守主任。しかも物語後半では、冤罪で投獄された囚人の処刑に立ち会わされる羽目になる。『グリーンマイル』は、『ショーシャンクの空に』を全く反対の視点から描いた作品なのだ。
 本作は舞台こそ刑務所だが、登場する死刑囚たちが犯した罪については、作中ではほとんど触れられていない。物語の肝はそこにはないからだ。ただ一人、ジョン・コーフィー(マイケル・クラーク・ダンカン)の投獄理由だけは少しずつ明かされていくこととなる。何故なら彼の存在こそが、本作が描き出そうとしたテーマと密接につながっているからだ。
 病気を治したり死んだ小動物を生き返らせるなど、不思議な力で次々と奇跡を起こし、ポールたちを驚かせるジョン・コーフィー。彼はまるで現代に蘇ったキリストだ。冤罪にもかかわらず最終的には処刑される道を選ぶジョンの姿には、十字架にかけられるキリストとも重なるものがある。
 囚人たちの犯した罪が描かれないのは、彼らがキリストが背負う人類の罪そのもののメタファーだからだ。しかしジョンは、彼らの罪を背負うことが出来ない。死刑制度を前に、圧倒的な無力感を味わうこととなる。そもそもキリスト教の教えでは、人は人を裁くことができない。人を裁く権利があるのは神だけだ。だからこそ神の代理として、法が人を裁くのである。しかし、その法を執行するのも結局は人間だ。そんな矛盾が、ジョンを追い詰めていく。
 主人公のポールはただの傍観者だ。目の前でジョンが処刑されようとしているにもかかわらず、そのすべてを見ていることしかできない。最終的には、自らの手でジョンを処刑することとなってしまう。「なぜ俺はお前を処刑しなきゃいけないんだ?」葛藤するポールに、ジョンは静かに答える。「俺は疲れた。愛を利用して、醜いことをし合う人間にも疲れた」悲痛極まりない二人の表情があまりにも切ない。
 最終的にポールに課せられる運命はあまりにも残酷だ。これは「罰」なのか、それとも自分が果たすべき「贖罪」なのか。再び救世主を失った世界を、たった一人でどう生きていけばいいのだろうか。宗教的なテーマを扱った作品のようでありながらも、最終的に本作は鑑賞者に実存的な問いを投げかけてくる。「自分とは一体何者なのか?」その答えを探しながら、人間は今日もまたグリーンマイルを歩み続けるのだろう。
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