めしいらず

ギター弾きの恋のめしいらずのレビュー・感想・評価

ギター弾きの恋(1999年製作の映画)
3.8
これはフェリーニ「道」のウディ・アレン版と見るべきだろう。ジャズ好きのアレンの面目躍如たる翻案に仕上がっている。自惚れ屋、ええカッコしい、エゴイスト、浪費家、浮気者、でも音楽の才能だけは本物。こんな女の敵のような主人公なのに、才能のお陰でまあモテる。そしてすぐに正体が知れて見限られる。彼が生涯で唯一引き当てた正解。天の配剤。その唖の女は彼に遣わされた天使だった。それなのにそんなこととはその時にはつゆ知らず、いつもと同じに別の女にすぐに目移りし、遂には乗り換える。美女に言い寄られて撥ねつけるような彼ではない。でも心の片隅であの女を欲している己に次第に気づいていく。人は本当に大切にすべきものをいつだって失ってから気付くものだ。二度と取り返しがつかない失態だったと知ったその時にも取り繕ってしまう哀れな滑稽さ。悲哀は誰の人生にも付きもので、人はそれによって深まっていく。だから主人公の音楽はその後にそれまで以上の高みに届いた音色を奏でたのだ。でも彼は悲哀に耐えかねて表舞台から去っていく。人生の後悔の一つ一つをいつまでもくよくよほじくり返し、まるで昨日の出来事のように嘆く私のような愚か者にはいちいち沁みて仕方がない。ラストの主人公の慟哭は、ジェルソミーナを失ったザンパノのそれと同じように、夜の静寂の中で誰の耳にも届かないまま消えていくだけ。
ショーン・ペンの快演に尽きる。まるで地のキャラクターのようだ。そして彼が戯れ弾くギターの、心がとろかされるような音色の優しさもまた甚だもって素晴らしい。本作はウディ・アレンの数多い代表作の中の一つだと思う。
再…鑑賞。
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