CHEBUNBUN

10話のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

10話(2002年製作の映画)
4.5
【パナヒの原点】
第71回カンヌ国際映画祭で惜しくも三大映画祭最高賞受賞を逃したイランの鬼才ジャファル・パナヒ。でも、そんなパナヒの新作『3 Faces』は脚本賞を受賞した。本作はどうやら金熊賞を受賞した『人生タクシー』の続編、姉妹作らしい。

『人生タクシー』は、イラン政府から映画撮影を禁じられ軟禁状態のパナヒ監督がタクシーの中だけで物語を作った大傑作。

しかし、これには元ネタがあった。パナヒの師匠ことアッバス・キアロスタミの『10話』だ。

『10話』は、車の中での一般人の会話を10種類収めただけの作品で、そのアイデアをアレンジしたことで大傑作『人生タクシー』が生まれたのだ。

DVD Fantasiumで取り寄せて観てみたら、噂通りの大傑作だった。

1話目から素晴らしい。カメラは助手席に乗る少年を映し出す。運転手である母親は映らず会話だけが聞こえる。そして少年と母親の喧嘩がスタート。口うるさく言う母親に対して少年は、「いつも、大人になったら、、、とかきっと気にいるとか言うけど考えを押し付けないで!うざいから!」と言う。そして、離婚したことを責め始める。母親は「まあ、なんて夫に似たこと!」と喧嘩はエスカレートする。そして、怒りが頂点に来た少年は車から降りてしまう。母親独りになったところで、初めてカメラは母親を向くのだ。たった1回の切り返しで、ドキュメンタリーがドラマに変貌する。この超絶技巧に開いた口が塞がらない。

この調子で残り9話が進行する。車内の駄話しかない。男に振られ泣く女、礼拝に行く婆ちゃん、坊主にした女性、、、街中の一般人が出ては消えを繰り返しているだけだ。しかし、そこら辺の人情ドラマより遥かに人間臭く、ドラマチックだ。

本作にはカメラマンなどいないし、例え役者を使っていようとも制御できない一回性の会話しかない。なら我々素人でも作れるのでは?と思うが、これは明らかに容易に真似できない。奇跡のショットを引き出す自信、そして偶然を信頼する力なくては絶対に撮れないのだ。キアロスタミの技術力の高さに脱帽した。

そして、その技術を、自分の境遇と混ぜ合わせ、自己流に型を創り上げたパナヒは更に凄いと感じた。
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