シズヲ

タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツらのシズヲのレビュー・感想・評価

4.4
殺人鬼と間違われた田舎者と殺人鬼に襲われたと勘違いした大学生グループの攻防(?)。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から連なるモキュメンタリーのパロディめいた手持ちカメラ式オープニングから始まり、その後もホラーやスプラッターの典型的イメージと共に映画が進行。アホな大学生グループが鬱蒼とした田舎町へ遊びに来るというシチュエーション自体がいかにも過ぎてフフってなる。

タッカーとデイルはもう普通に良い奴らだし、大学生側の勘違いで勝手に犠牲者が増えていくさまはブラックユーモアに満ちていて笑ってしまう。犠牲者達は根本的に愚かで戯画的な存在なので、次々に残虐な死を遂げても普通に受け入れられるのがよい。バイオレンスながら小気味良く進んでいく展開のおかげですんなり見ていられるし、単純にタッカーやデイルの掛け合いが見ていて楽しい。アリソンとの交流や終盤の友情なんかは何だかんだ普通にグッと来てしまった。デイルの純朴さがとにかく微笑ましい。ラストも清々しい結末でスッキリ幕を下ろしてくれるのでやっぱり憎めない。なんか死にまくった割に綺麗な感じに終わったのは笑うけど、まあそういうこともある。

この映画のパロディ性、往年のホラー・スプラッターがいかに“アメリカの田舎者=貧困白人層”への偏見的ステレオタイプを根付かせたかを意識的に用いているところが興味深い。タッカーとデイルはもうパッと見でわかるくらい典型的なヒルビリーで、デイルは特に無教養ぶりが顕著(字幕でも「オラ……いやオレ」と訛りが表現されたり難しい単語で引っ掛かったりしてる)。都会の大学生グループはそんな彼らを序盤から不気味な連中扱いし、その後も基本的に“ヒルビリー=殺人鬼”というイメージに引っ張られて誤解が加速する。そうして偏見がどんどん拗れていき、遂には“殺人鬼”と“犠牲者”の立場を逆転させてしまう(あと擬似的な“殺人鬼対決”という夢の対戦カードも実現)。この構図自体がある種の皮肉として機能していて面白い。

都会人と田舎者の文化的ギャップによるディスコミュニケーションを見ていると、アメリカは一定の地域を跨げばほぼ別世界という話がよく分かる。内容自体はジャンルのパロディに基づくコメディ映画だけど、作中で描かれるイメージが“アメリカの土壌”を少なからず映し出していて印象深い。
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