シズヲ

黒い太陽のシズヲのレビュー・感想・評価

黒い太陽(1964年製作の映画)
4.4
「黒人はみんな俺の友達なんだ!だから!アイラブユー!分かるだろ!?」

ジャズ愛好が高じて黒人崇拝の域に至った若者の明。そんな彼のもとに殺人を犯して逃亡中の黒人兵士が偶然逃げ込んでくる……。カルト的感覚を滲み出す異色の映画。奇想天外な粗筋と歪なバディ関係は半ば混沌の領域に片足を突っ込んでいる。どれだけ焦燥した展開になろうと、全編に渡ってスタイリッシュなジャズ・サウンドをBGMとして流し続けるセンスも強烈。オープニングとラストに流れるけたたましい音楽はもはやカオス。ヌーヴェル・ヴァーグの影響を大いに受けたらしいけど、実際それだけのシュールな前衛性がある。

主人公はとにかく黒人に過剰な幻想を抱く。ジャズに傾倒しているせいで「黒人はみんなジャズ好きだし楽器や歌も得意のはずだ」とでも思っているかのような態度である。その青臭すぎる感性が逃亡黒人兵士のギルに対して剥き出しでぶつけられる。黒人との対面に歓喜し、馴れ馴れしく話しかけ、しかし理想と現実のギャップに直面して勝手に逆上する……そもそも英語を話せないのでコミュニケーションが成り立たない。行き過ぎた黒人崇拝のあまり、“偶像性”の押し付けを無自覚にやらかしている主人公の痛々しさは強烈。幻滅してもなお自身に黒塗りのフェイスペイントを施し、対する黒人の顔を白塗りして“奴隷”扱いするという屈折した構図は色んな意味で凄まじい。ステレオタイプの押し付けや見世物としての扱いも含めて、黒人差別への根源的な言及が伺えるのが面白い。

肝心の黒人兵士もめちゃめちゃ自棄糞。逃亡中という崖っぷちの立場に加え、負傷しているのもあってか常に切羽詰まって動揺している。「何でもいいから死にたくねえ」と言わんばかりの慌てっぷりはいっそ哀れになってくる。こんな調子だから黒人よいしょの明とは全然噛み合わないし、終盤に至るまでろくに意思疏通が図れないという滑稽な状況が続く。それでもラスト近くになると二人の間に奇妙な絆が生まれる。ただ、個人的には“関係性の積み重ねの結果”というよりは“極限状況で芽生えた我武者羅な感情”っぽさを感じる。そういう訳で二人の関係は最初から最後まで極めて無軌道に見えるし、その辺りが映画自体の破天荒な熱量に拍車を掛けている印象。そして文字通り明後日の方向へと飛んでいく唖然のラストはいっそ清々しい。
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