ノリオ

TAJOMARUのノリオのレビュー・感想・評価

TAJOMARU(2009年製作の映画)
2.3
良くも悪くも中野裕之にはスタイルがある。



中野裕之といえば90年代後半、『サムライフィクション』で、ティーンエイジャーの心を鷲掴みにし、低迷していた邦画界に“オシャレ映画”という新しいジャンルで一時代(ほんの一瞬)を築いた人物である。


ショートフィルムは何本か撮っていたようだが、『RED SHADOW』(2001)以降長らく本編からは遠ざかっていた。


久しぶりに中野裕之が映画を撮る。
主役は小栗旬、しかも原作はあの『薮の中』である。

あの頃に青春時代を過ごした者にとって、もはや劇場でそれを確認するのは義務なのかもしれない。



室町時代。名門、畠山家の次男・直光(小栗旬)は、幼馴染で婚約者の阿古姫(柴本幸)を、両家を取り巻く事情の急変から兄・信綱(池内博之)に譲らねばならぬ状況となった。
だが二人は運命に抗い、後先考えずに駆け落ちする。そして道中の藪の中で、盗賊多襄丸(松方弘樹)に襲われてしまう。



様々な視点からある事件を証言していくという原作の構成をとらず、一証言者でしかない多襄丸を主役に据えたというのは、物語をシンプルにしている。

ある意味わかりやすく、また他方で物足りなくしているのも事実だ。


人それぞれ感じ方や見え方は違う。
それが事実を曇らせ、それぞれの捉え方により、それぞれの真実へと変容していく。

だからこそ、多襄丸という男の視点に徹底して欲しかったと感じる。



舞台的と言ってしまえるかもしれないが、小栗旬の芝居は迫力があり見応えがある。(これは好き嫌いが分かれるところではあるかもしれないが)
脇を固める俳優陣も魅力的だ。
とりわけ久々にスクリーンに帰ってきた萩原健一は、その怪物的な存在感で若手俳優たちを圧倒している。



エンドロール、この映画が中野裕之が監督であったことに気付く。
まったく彼のらしさが伝わらない映画になっていたからだ。

聞けば中野裕之は、クランクイン直前、様々な事情で急遽監督を引き受けたという経緯があったのだそう(なんと二週間前!)
それ故に映画の完成だけを主眼として撮影された感が否めない(もちろんアクション要素も多分にあるので、非常に多くのカット数をこなせたのは彼だから、というのはあるかもしれないが・・・)


それをなんとかまとめ上げた手腕は高く評価するが、彼の持ち味は薄れていたのが残念でならない。
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