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フローズン・リバーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

フローズン・リバー(2008年製作の映画)
3.9
 シングル・マザーではないが、最初からギャンブル依存の父親がいないシングル・マザーのような家族で、15歳の息子に弟もいて、狭いトレーラー・ハウスに住んでいてお金もない。生きること自体自体がもうサスペンスとして相当重い。彼女には相談に乗ってくれる隣人も親戚もおらず、夕飯はポップコーン。TVも取られるギリギリの生活の中で選んでしまった密入国の仕事。ビンゴ場で働くモホーク族の女の子との不和から、女として、母親としての共感から徐々に芽生える友情は物語の重要な機微となる。ニューヨーク州もカナダとの国境沿いの街まで行くと、都市としての面影はなく、あるのは雪に囲まれた殺風景な風景で、2人の女の荒廃した気持ちさえ伝わって来る。違法な犯罪に手を染める女たちには共感は出来ないものの、出てくる人物が警察官も含めて皆優しい。母は兄弟を守るために犯罪に手を染め、15歳の息子も弟を喜ばせるために犯罪に手を染める(嘘を重ねる)。親子は互いに嘘をついていることに気付いているが、何とか今の生活を維持しようとする。

 貧困で子供を奪われた母親の焦燥と、パキスタン人の置いてけぼりにされた子供がオーバー・ラップするあたりも胸を締め付けられる。日本人にとっては、モホーク族の州法が適用されない保留地の描写はあと5分ほど尺を伸ばし丁寧に説明して欲しかったが、たまたま入ったウルフマート(ウォルマートのパクリ)で子供に会うところも切ない。とにかく女性らしい繊細で細やかな描写の一つ一つが心に響く。トレーラー・ハウスの描写や手持ちカメラのドキュメンタリー・タッチの不安定さなどは、ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』によく似ている。そして現代の不寛容なアメリカ人に欠けている「他者を思いやること」の美しさが痛々しいまでに切り取られている。翻って冒頭部分に話を戻すと、居留地のそばに住んでいるギャンブル依存症の父親を生んだのは、レーガン政権下で保留地への補助金を大幅に削減したからに他ならない。その対抗措置として、先住民たちはギャンブル施設を作ることで白人がお金を落とす流れを作るしかなかった。アイスバーンになった道を今来た通りに引き返す場面には女性としての強さが見えた。そういう背景を持って生まれた普通の母親2人の物語である。
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