むさじー

紙屋悦子の青春のむさじーのレビュー・感想・評価

紙屋悦子の青春(2006年製作の映画)
3.8
<戦時下の、残された者どうしの青春を描く>

原作は松田正隆の戯曲で、脚本は黒木と山田英樹が書き、映画は黒木の遺作となった。
原作が戯曲と知らずに観始め、会話劇風であり、長回しの静けさが何となく小津映画の雰囲気に似ていると感じていた。
添い遂げて老いた夫婦の不自然なメイクや、冗長としか思えない会話、映画的にはマイナスでしかないのだが、演劇的には理解できる。
若くして戦時下に出会った二人が、平凡につつましく、やや退屈な人生を送ってきたと思えば、変わり映えしない容貌も退屈な会話も、二人の歴史なんだというメッセージに受け取った。
静かな反戦映画で、戦争の映像は全くなく、むしろ食糧危機の市井の暮らしにほほえましい笑いがあったことが救いである。
そして「秘めたる思い」という死語になりつつあるものが、ストレートに感動を誘うというのも久しい。
戯曲の映画化の印象はぬぐえないが、俳優5人の演技が素晴らしく、映画としても秀作である。
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