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華の乱の教授のレビュー・感想・評価

華の乱(1988年製作の映画)
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まず、感想としては大好きな作品である。
「仁義なき戦い」などのアクション映画監督としての深作欣二ももちろん好きだが、文芸映画としての本作は、ひとつの芸術論というべきか、時代や社会に対しての表現についての物語として集約されている点が面白い。

創作者特有のニヒリズムや、破滅願望。
生を充実させたいと思うあまりに失われる社会性であったり、生活力のなさ、恋愛という非日常への執心と没頭。
常に惹きつけられ、邁進する「死」と。
権力への対峙。
それらを大正時代を通して、とにかく詰め込んでみせる。

与謝野晶子の「女性」としての強さを前面に。家事をこなし、12人の子供を育て、詩作に打ち込み世間の評判に対峙する。
何より、芯にある熱情。恋への一心不乱さを絡めて描く激しさは楽しい。

ただ有島武郎を演じる松田優作の恐らくキャリア初と思える、監督への全幅の信頼を委ねた落ち着いた演技に感心する。
その対となる与謝野寛(鉄幹)を演じる緒形拳、アナキスト大杉栄を怪演する風間杜夫など、男優陣の旨味は堪能できる。

一方で、主演である吉永小百合がそれを完全に与謝野晶子を体現しているかというと、やはり、吉永小百合以上のものはなく、池上季実子演じる羽多野秋子も迫力に乏しい。
少ない出番ながらも印象を残す石田えりや、とても映画的とは思えないほど大胆な「舞台芝居」を過剰なまでに発揮する松坂慶子(この芝居は意図的であり、舞台女優である松井須磨子が夫の死を悲劇的に「盛って」演じて見せている構図になっている)などは少なくとも文句なしの迫力を持っている。

「死」に取り憑かれた芸術家たちが立て続けに死していく中で「生活という戦争」を生き延びる事を課し、それでいて恋と創作の両天秤の中で揺れていた先の関東大震災による破壊と、再生で終わる劇性に古臭さも感じながらも充分楽しめた。
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