ろ

サムサッカーのろのレビュー・感想・評価

サムサッカー(2005年製作の映画)
5.0

「誰もがなにかに依存して生きてる。自己愛とか理想の生活とか、いろんな考え、妄想、成功と失敗とか。’家族を持てば寂しくない’も妄想かもね」

17歳のジャスティンは学校でも夢の中でも指しゃぶりをやめられない。
「まずその癖を直すんだ」
「やめたいよ、努力してる。僕を信じないの?」
「要は結果だ」
父親はジャスティンの親指に自分のイニシャルを書く。

「歯列矯正で問題は解決しないよ」
行きつけの歯医者さんはジャスティンに催眠術をかける。
苦くなってしまった親指。
心の拠り所をなくしたジャスティンは不安に駆られ落ち着きをなくしていく。

指しゃぶりに代わるもの、この不安を取り除いてくれるものならなんだって大歓迎だ。
薬のおかげで成績は上がり、頭のモヤモヤも晴れて絶好調。
あれ、だけどこれって本当に幸せ・・・?

診察室に狼、学校の会議室にも狼。
夢の中の狼は’期間’の象徴なのだそうだ。
一人でトイレにこもる時間が必要だったように、指しゃぶりも効きすぎる薬も、自分じゃない自分から卒業する痛みも上手くいかない苛立ちも、どれも必要だった。
早く過ぎればいい、このもどかしさをどうにかしたい。
だけどどんな些細なことも、確実に前へ進むための原動力になるのだと信じたい。

「ジャスティン、人はみんな重荷を負ってる。自覚のない重圧で、人によっては深刻だ」
「心の中に?」
「そう、内面的な圧迫。それが人をある行動に駆り立てる。本人は嫌なのに」

「全部ダメな気がしてた」
「考えすぎるからさ。直そうと魔法の解決策を探してジタバタする。なぜ直そうとする?人に出来るのは、考えて努力して望むだけだ。決して自分が正解などと思うな。それは幻想だ。大切なのは答えなしに生きる力だ」

なにかに依存するのは、それが今のその人にとって必要だから。
そこにはいいも悪いもなくて、ただその人がいるだけ。
至らなさも愛おしいよ、ありのままでいてよと優しく背中を押してくれる映画だった。
ろ