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ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場のtjZeroのレビュー・感想・評価

3.8
クリント・イーストウッドが演じてきた役柄といえば、
① 刑事…『マンハッタン無宿』、『ダーティハリー』、『ガントレット』、『ルーキー』など。
か、
② ガンマン…『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『ペイルライダー』、『許されざる者』など。
が、すぐに思い浮かぶと思いますが、そのふたつ以上に実はピッタリだと思うのが、
③ 軍人、役です。

『荒鷲の要塞』、『戦略大作戦』、『ファイヤーフォックス』…退役軍人役まで含めれば『グラン・トリノ』や『運び屋』だってそうですね。

そんなミリタリー物の中でも、本作は極めつけでしょう。

主人公のハイウェイ軍曹は、戦場でしか輝けない男。
名誉勲章を受けているほどの強者なのですが、私生活では酒とケンカが好物で警察にもしばしば厄介になってしまう。

除隊間近の彼は、落ちこぼれの偵察小隊をあてがわれます。
自身のキャリアを”0勝1敗1分け”(朝鮮戦争で引き分け、ヴェトナムでは負け)とふり返る彼は、最後のプライドをかけて若者たちを鍛え上げていく。

グータラだった隊員たちがみるみる内にキビキビとした動きに変わり、態度も堂々としていくのを見るのが爽快です。
ハイウェイ軍曹の硬軟使い分けた指揮ぶりは、映画監督としてのイーストウッドの敏腕を見ているようでもあります。

実戦において臨機応変をポリシーにしている彼は、私生活でも柔軟な姿勢を貫きます。
別れた妻マギーとよりを戻すため、女性誌を熟読して女性心理を研究する健気さも持っています。
それはまた、本作のような好戦的な作品を作る一方で、『父親たちの星条旗』や『硫黄島からの手紙』といった厭戦の思いを込めた連作を送り出したりする、”臨機応変”な映画作家としての姿にもつながります。

この映画はハイウェイ軍曹の帰還で終わりますが、除隊した彼の老後が『グラン・トリノ』や『運び屋』になっていくんだな~と思うと、感慨深いものがあります。

つまり、クリント・イーストウッドというひとりの映画人を追うことで、豊かな映画史の一端に触れることが出来る。
追いかけるに値するフィルムメーカーだと思います。

近年は”レジェンド”という呼称がやたらと乱発(安売り)されていますが、イーストウッドのような存在にこそ、その名誉は捧げたいですね。
ハイウェイ軍曹の胸に輝く勲章のように…。
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