暴力と破滅の運び手

ボー・ジェストの暴力と破滅の運び手のレビュー・感想・評価

ボー・ジェスト(1939年製作の映画)
4.0
アラブの砂漠の真ん中に立つ砦にフランス人外人部隊の中隊が到着すると、そこは死体のみが銃座に並ぶ異様な空間と成り果てていた。中には誰もおらず、斥候に寄越したラッパ兵も消え、一行がアラブ人を撃退すると砦は燃えはじめる。
15年前。ボー、ジョン、ディグビーのジェスト三兄弟は、孤児としてアッバス夫人に引き取られ、すくすくと成長し、青年になるとジョンは娘イサベラと恋に落ちるが、そんな折に家宝のサファイヤが盗まれ、自分たちの誰かが犯人であることを察知した三兄弟はフランス外人部隊としてアラブでの戦争に参加する。新兵教育担当の鬼軍曹マルコフは密告者から兄弟のサファイヤの秘密を手に入れ、砦にてそれを奪おうと画策する。マルコフにあまり非人間的な扱いを受けた新兵たちの反乱が密告者によって失敗し、処刑が行われようとしたまさにその時、砦にアラブ人たちが攻めてくる。

どこからでも銃口が現れてきそうな緊張感ある冒頭部から、多幸感溢れる夫人の館での幼少期(バイキングの葬式と称しておもちゃの船を焼くシーンが印象に強く残る)、そして砦での陰惨極まりない顛末までが、極めてウェルマンらしく美しく撮られていて、ロマンチックだった。戦闘シーンを見るとアパッチをアラブ人に置き換えた西部劇のような映画なのだと了解でき、砦での戦いもかなり空想的な仕上がりであるように思える。たとえば、児童向けの冒険小説がそうであるように。
まあなんというか端的に言うならかなりおばかな原作だったのではないかと想像するのだが、しかしそこにイカれた軍曹やそれに参ってしまった兵隊たちの鬱屈した狂気が異様なディティールを伴って描き込まれているのが恐ろしく、また何と言っても“死”の撮り方の寒々しさには堪えるものがある。死体を銃座に運ぶくだりのばからしくも恐ろしいったらちょっとないし、最後の死人に至っては砂漠をごろんごろん転がっていくので。
たとえば『廃墟の群盗』や『民衆の敵』のような完璧さはないけれど、光景と人物に被せられたテクスチャの相違がもたらす不思議な感覚がこの作品にもきちんとあって、かなり成功していると思う。