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イン&アウトのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

イン&アウト(1997年製作の映画)
3.5
プライド月間。今回は少し古いこちらの異色作を。タイトルから連想されるようにいわゆるカミングアウトものなのですが、主人公や周囲の葛藤などはほとんど描かれず、徹底したコメディテイストを貫いているのが唯一無二の驚くべき作品です。

第66回アカデミー賞授賞式でトム・ハンクスが高校時代の演劇教師がゲイであると述べた事件。もちろんご本人に了承はとってあったのですが、この件がもしそうでなくて結婚間近の男性に対するまさかのアウティング事象であったとしたら?というところから発展したストーリーです。

皆様レビューに書かれているように設定・前提からして今では絶対成り立たない映画で時代を感じます。もちろん倫理面やコンプラ的な問題もあるのですが、社会的な側面はほぼ描かれず、完全な主人公のドタバタコメディとして描かれているのでそこらへんはそれほど気にならず。

じゃあどこで時代を感じるかというとコメディ部分。ゲイに関するステレオタイプをジョークにして映画は構成されているのですが、やはり25年でガラっとゲイに対する世間の認識が変化するとともにそのステレオタイプの中身も変化したため、この映画で使われるジョークの多くがジョークとして成り立たなくなっています。「え?今冗談っぽい感じだったけど当たり前のこと言っただけだよね?」とか逆に「いや、誰もそんなこと思ってないけど...」みたいなのがひたすら続きます。この時代に生きている者からすると、時代が変わったなぁと感慨深くなるものの、この時代に生きていないお若い方は、スベッてるか意味不明にしか思えないはず。ただ、矯正テープ教材は素直に面白かった。

この映画がとにかく他と違うのは、冒頭に書いたように主人公や周囲が面白おかしくドタバタしているだけで全くといっていいほど葛藤しておらず、どったんばったんパニック状態になったけど、でも認めちゃったら「あーすっきり」という描き方。変だなぁと思いつつ、脚本がゲイの方とわかって不思議と納得。カミングアウトを明るい希望として描きたかったのだと理解しました。

一つだけ盛大にツッコミを入れさせていただきたい。
アカデミー賞授賞式で流される教え子出演のゲイ戦争映画の紹介映像。
ビリー:ダニー、これ(裁判でゲイであることを認めたこと)が正しいことだったかわからないよ
ダニー:(ワシントン大統領の銅像を見上げて)彼に聞いてみれば?
ビリー:大統領、僕はこれでも善きアメリカ人といえる?
そこはワシントンじゃなくてリンカーンやろー!!
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