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わが母の記のharunomaのレビュー・感想・評価

わが母の記(2011年製作の映画)
3.8
大好きな Bach: Violin Concerto #1 In A Minor, BWV 1041 - 2. Andanteが妙に、原田の軽妙なショットのリズムによって、安っぽく穏やかに伊豆の山奥のバスの移動を彩っていく。
原田の映画のリズムは資本主義の説明の要請に違いなく、なし崩し的にそれを受け入れざるをえないが、主体を伴った快楽なり官能があるはずもなく、美学的に露悪派でもない中庸に位置する彼の映画は、建築の現代的なデザインのように、ただ軽快に見ることを楽しむだけだ。誰もそれを粋とは呼ばない。それでも演技があり、光があり、カット割りがあり、演出があり、ドラマもある。やっていることは、高度に映画に醸成された踊る大捜査線のようなものだろう。嫌いではない。むしろ好きだ。
『ユリイカ』から12年ぶりの共演である役所広司と宮崎あおいであるし、劇中で揶揄される映画が『東京物語』でもあるのだが、原田には正統性もなく、土台軽薄な野伏の監督であるのだから、こいつの映画にはナラティブのかけらもない。しかしこれだけの役者と井上靖の自伝ということで何かを汲み取っている。ラストショットは酷すぎる。反小津と言える。
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