sayuriasama

殺人者のsayuriasamaのレビュー・感想・評価

殺人者(1966年製作の映画)
4.2
気の強いお嬢様と、ナイーブな青年の悲恋

またもや大型台風が接近中ですが、いかがお過ごしでしょうか。
気温変動も大きく体調崩しそうですが...

本作品はシネマヴェーラ渋谷で開催中の大映作品特集からの1本。同じ建物内のユーロスペースやloft9は行ったことあったので場所はすぐわかったのですが...渋谷とは思えぬ名画座ファンの客層には(これが日常なのですが)ちょっと驚き。

ストーリー:社長令嬢の純子は父親の小切手を無断使用して、画廊で絵を手に入れる。その罰として、父の所有する小樽の別荘に1人で住むことを命じられる。別荘にはお手伝いのおばちゃんも住み込みでいるため、そこまで不便な暮らしではない。ある日、隣人の千穂子の家を覗き見していると、彼女が客人と言い争う様子が見えた。その後、銃声がして、千穂子が殺されたことを知る。恐怖に怯えた純子に更なる恐怖が...なんと猟銃を手にした若い男が屋敷に入ってきて銃を突き付けてきた。警察の捜査も始まるなか、2人の奇妙な共同生活がはじまる。

ストーリーや話の流れに驚きはないかな。むしろ、言うなれば感情の揺れ動きが早くて??になることもあってそこまで丁寧な作品には思えませんでしたが...
安田道代演じるお嬢様の純子の、実は意外と威勢よく、感情のままに生きる雰囲気がストーリーの突飛な変化を目立たせないいい目隠しになっていて、思ったよりいい感じでした。かわいいプードルとずっと一緒だったり、宇津井健演じる捜査員にキッつくあたったり。あのお嬢様キャラが仮面だった、位のバックボーンがあればもっと説得力あったのになあ。(それに北海道にいるのに全編ノースリーブなのが気になったけど...)殺される江波杏子はサディスティックな二号さん。登場時間は短いものの狂気がすごくて、前半は彼女の魅力でストーリーが持っていた感じ。猟犬でプードルを襲わせたり、純子を引き殺そうとしたり。こちらも映画内での描写が中途半端でもう少し登場させてもよかったなあ。(それだけ画にパンチがあったので。)

さて、タイトルにもなっている「殺人者」こと白戸役は超若い石立鉄男。もちろん髪は「もじゃってない」です。うん、もはやマイブームだな。もじゃってない時代の作品を観ることが。(もじゃもじゃ時代のドラマも観てますが)
白戸は、千穂子に惚れ込んでしまい、結婚しようとまで思っていたものの、千穂子は結局金持ちの愛人になってしまう。白戸はそれに逆上して殺してしまうのですが、激情型の人間にはあまり見えないなあ。だけど、どこかに弱さがあって、その弱さを御しきれず、暴走させた時に何かやらかしそうなナイーブな青年ぶりは母性本能をくすぐる甘さがあったなあ。強気な姉御ほど、ころっと騙される感じの(笑)毎度瞳にやられるんだよなあ..
純子の屋敷にかくまわれているときは話に流れが出なくてつまらなくなるなあと思ったものの、刑事がきたり、純子の弟とその友達が突然来たり、住み込みのおばちゃんにバレたりと意外とサスペンスフル。うーん、純子が白戸を好きになったのは吊り橋効果かなあ。今思えば。
宇津井健は一番真っ当で爽やかな人物ですが、今回は若い二人を邪魔する大人という感じ。でも、職務に忠実ないい刑事でした。
北城真紀子演じる住み込みのおばちゃんもいいキャラで。彼女のシーンでは結構笑いがあちらこちらから起こっていました。

ともかく、この時代の石立鉄男は毎度「素朴、純情、いい人、肉体労働者」みたいなキャラで今回もその流れ。でも、正直、騎手見習いで厩舎所属の若者には見えなかったなあ。調教助手には思えるけど。競馬ファン的には、あの背丈でジョッキーとなると武豊&武幸四郎他数人(幸四郎は調教師になってしまったけど)ぐらいしかいない、しかも現役時、幸四郎の骨年齢って70代だったのだから...今回の事件は、減量苦のイライラから起こしたのだな(と今勝手に納得させているが違うな)
ラストは競馬場に佇む純子。あっけないけれど、誰もいない競馬場の哀愁は感じました。

原作の小説もあるようなので、そこを読めば登場人物の行動の背景がよく分かると思うのですが、脚本ではその魅力が削がれていたように思います。ただ、俳優陣の作り上げた個々のキャラクターの良さからいい小品として楽しめました。
というわけで、星はちょっと甘めです。
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