Jeffrey

ピカソ-天才の秘密/ミステリアス・ピカソのJeffreyのレビュー・感想・評価

4.5
「‪‬ ミステリアス ピカソ - 天才の秘密」

〜最初に一言、クルーゾーの大傑作。絵筆と作品が180度生まれ変わる過程を見事に捉えた全く新しい感覚で展開される80分間に息を飲む。スタンダードからシネマスコープへと拡大するサイズとモノクロームとカラーが混在していく手法に動くピカソを存分に楽しめる1本である〜

‪本作は1956年に世界3大映画祭を作品賞で制覇した映画監督3人の中の1人アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが監督した世紀の傑作で、すでにBDを持っていたが、今回4Kレストアで再発したのを購入して、久々に鑑賞したが素晴らしいの一言である。驚異の創作現場がH.G.クルーゾー監督、C.ルノワールの撮影で完成されたピカソの絵筆と作品が180度生まれ変る過程に息を呑み彼の才能に触れる感覚で、80分の尺に収まる実験的かつ変貌する色彩と時間の観念が狂う大傑作。このスタンダードからシネスコへと拡大するサイズとモノクロとカラーが混在していく手法に動くピカソ…芸術の魅力にヤられる。

本作は1956年カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞し、20世紀最大の画家の1人である、パブロ・ピカソを描いたもので、この比類なき芸術家の創造の秘密に迫るアート・ドキュメンタリーである。本人の全面協力のもとに制作され、映画史と美術史において重要かつ貴重なものとなった本作が、美しい4K版の高精細映像によって蘇った事に歓喜してる。本作の冒頭で本人であるピカソが映し出され、ナレーターで物語が解説されていくのだが、3分後のショットでは、キャンバスが画面いっぱいに映り込み、そこで彼が描く絵の数々が紹介されていく方式で進んでいく。最初は子供の落書きのようなお粗末なものだが、それが徐々に何層にも筆が重なり、色がついていき完璧な作品へと進化していく。さらにその絵の上から新たな作品が誕生すると言う画期的な演出に驚かされる。

2作品目の絵画からはオルガンの音色やハープの音色など音楽が流され、細い筆で描かれる女性の裸体で始まる。そして男2人が描かれ、青、緑、赤、茶色、黄色等様々な色が入り込んでくる。徐々にすごい作品が紹介されていくのだが、3本線を書いてそこから圧倒的なピカソを象徴するようなスタイルになり、それが逆再生になっていくのもまた面白い。塗りつぶしや異様なモデルとキャラクター、そして残りのフィルムで5分間撮影できると言う監督の指示により、十分だ驚かせるようと余裕のピカソの上半身裸の彼の後ろ姿からキャンバスをとらえるカメラなどを彼の日常が静謐なモノクロの映像を通して垣間見れて良い。

実は監督とピカソは撮影をさかのぼる30年前の時点で互いに知り合いだったそうだ。なんでも当時18歳だった監督は、政治学を学ぶためにフランス西部の街からパリに出て行き、図書館や博物館の要職について、後に芸術家サークルに出入りしていき、すでに有名だったピカソと知り合い、芸術家との友情をはぐくみ始めたそうだ。そんな2人の間で本作の構想が話題になったのは、1952年の頃だったそうだ。当時ピカソは南フランスの地中海沿いに位置する街に自らのアトリエを構えていたそうだ。一方、監督は一時期的に「恐怖の報酬」(後にベルリン国際映画祭最高賞の金熊賞受賞する作品)で大成功を収める直前あたりらしい。

なんでも55年の春に、監督に連絡したピカソが、合衆国で開発されたばかりのフェルトペンのことを話して、このフェルトペンが画期的なもので、何ページにもわたってインクが切れることなく書き続けることができるため、カンバスに描く場合も同様であり、ピカソのこの言葉がきっかけだったらしく、そのアイディアが生まれたのが1955年とのこと。そうした中、創造行為を目撃することになる。そしてこの映画にはいくつものの仕掛けが施されており、監督はピカソが絵を描く様子を、全編固定画面のみで捉え、絵画の生成過程に観客の視線が集中するよう配慮したそうだ。一方で、色彩の用い方に関してはある種の演出が施されていた。

ピカソが黒インクのペンで描いている映画の最初のほうは画面が白黒であるのに対して、彼が徐々にさまざまな色のカラーペンを用意いるようになると画面が色を帯始めて、カラーフィルムになる。そして画家が油絵の具で色を塗ったり紙を貼り付けてコラージュを制作したりし始める後半になると、たちまち画面に色彩が溢れ出すと言う仕掛けになっている(無論映画は一応モノクロになっているが)。こうして、巨大なガラス板を前にしてピカソを立たせ、その板に様々な絵をかかせつつ、その様子を板越しに撮影することで、画家の独特の筆づかいをフィルムに収めることに成功していると映画評論家の遠山純生氏が解説していた。ちなみに今回描きあげた絵は全部で20点ほどにのぼるが、その大半は撮影終了後に破棄されたそうだ。

さらにこの映画の驚きの1つと言えば、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した「かくも長き不在」の監督としても知られるアンリ・コルピが編集を担当しているのだから驚くのと、それまでスタンダードサイズだった映画の画面そのものが、シネマスコープサイズへと変化するのも面白い。そしてほぼクライマックスになる、フィルムの残り時間がピカソに伝えられ、観客は残り数分の中でピカソが無事に絵を完成できるのかと言う緊迫感の中見ることになる演出も個人的には好きである。まだ未見の方がオススメである。そういえば先月ぐらいから始まった秋アニメの「ブル・ーピリオド」も絵画をテーマにしたアニメで面白い(ピカソを批判する場面が出てくるが)。
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