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アメリカン・ヒストリーXのGreenTのレビュー・感想・評価

アメリカン・ヒストリーX(1998年製作の映画)
3.5
白人至上主義のネオナチに感化され、スキンヘッドになった若者の物語ですが、私は「社会における大人の責任」を考えさせられました。

ネオナチのユース・グループのリーダーとして慕われるデレック(エドワード・ノートン)は、夜中にトラックを盗もうとした黒人の若者2人を殺した罪で3年間刑務所に入る。デレックを尊敬する弟のダニーは、デレックそっくりのネオナチになっていく。

デレックもダニーも非常に頭が良く、作文がすごく得意なのですが、頭がいいからこそ社会の欺瞞にも敏感なんだなと思いました。デレックがロドニー・キングやLA の人種問題の暴動に関して話しているシーンは、言葉遣いも内容も知性が感じられる。

舞台になるヴェニス・ビーチは、どうも話を聞いていると、元々は白人中心の地域だったのに、だんだん黒人が増えてきて、地域の景色が変わったところのようなんですね。デレックやダニーが通う学校でも人種ごとにグループができているようなんですけど、この子たちと私たちが育った環境は、そんなに違うとも思えないのです。日本だって学校では不良グループ同志がケンカしたりなんてあるわけで、たまたま人種が色々入り混じっているから政治的な話になってしまう。

そして親が働いている社会でも、この頃特にAffirmative Action と言って、マイノリティの人を優先的に雇ったり、大学に入れたりっていう動きがあって、デレックたちのお父さんは消防士なんですけど、採用試験の点数が良くなくても黒人だからというだけで雇われる、そういう人たちと命がけの仕事をするのは不満だ、と息子たちに言うんですね。

大人たちは、自分が体験してきたこと、見ている現実に影響されて自分の主義主張があり、誰が正しいとか間違っているということではない。中には思春期の子供たちの不満や焦燥につけ込んで利用しようという悪い大人もいるけど、そういう悪意がなくても、それぞれの立場で偏った意見を言ってしまうこともある。

子供は、親や学校の先生の言うことをそのまま吸収し、夜遊びするようになれば外で色んな大人たちにも出逢う。こういう大人たちの一言に、若者はすごく影響されてしまうんだなあと思いました。

デレックも、右に左に振れ過ぎだとは思うんです。学校で素晴らしい先生に出逢うとその先生に傾倒し、お父さんが黒人のドラッグディーラーに殺されたら、白人至上主義のネオナチに傾倒し、刑務所で黒人に助けられたらネオナチはクソだ、みたいになる。

しかし、自分が高校生や20代前半だった時のことを考えると、「こんなもんだよな〜」と思うのです。今だったら、善人に見える人でも別の面があるとか、メディアが褒めまくる人はまず疑ってかかったほうがいいとか、白黒ハッキリできる社会問題なんてない、とか思うけど、子供のときって、悪いことは正せる、善と悪はハッキリ境界線があると信じているから、反社会的な方に振れてしまうと極端なところまで行ってしまう危険もはらんでいる。

特にこのスキンヘッドたちのカルチャーは、ハードコア・パンク・ムーブメントとも密接に関わっていて、こういうムーブメントが仲間意識を作り出してしまうから、自分たちを客観的に見れなくなってしまう。

私が思わず泣いてしまったのは、デレックが刑務所で一緒に仕事をする黒人の青年がデレックを助けてくれる話でした。この青年、ラモントは、TVを盗んだだけなのに、6年も刑期を喰らった。デレックは人を2人殺して3年なんですよ。ラモントは、自分が差別される側にいるのをわかっているけど、それに飲み込まれていない。自分らしさを保っている。デレックが全く打ち解けなくても、ユーモアたっぷりの自分のままで接し、最後にはデレックの心を溶かしてしまう。

刑務所では、強面でガチガチに鍛え、入れ墨入れまくりの囚人たちが、白人、黒人、メキシカンごとにギャングを結成して牽制しあっているのですが、白人のネオナチはメキシカンと商売をしていたりするんですね。結局、人種ごとにグループを作っていても、お互い助け合わなきゃ生きて行けないんじゃん、と私は「社会の縮図」を見た気がしたのですが、デレックは白人の権利を奪う「移民」と仕事をしているじゃないか!と「純粋まっすぐ君」過ぎて、白人も黒人もメキシカンもみんな敵に回してしまう。

ギャングの後ろ盾がなくなり、いつ誰に攻撃されるかと、残りの刑期をビクビクしながらすごすんですけど、出所の日、実はラモントが裏で黒人のギャングを牛耳っている人たちに話をつけてくれたことをデレックは知る。

そのおかげでデレックは、五体満足のまま出所することができた。ラモントより先に。それでも明るくデレックを送り出すラモントに、私は泣けました。

これがお涙頂戴的!嘘くさい!って思う人もあるかと思うんですけど、本当にこういう人っているんです。私も年を重ねる中で、人間っておろかで、世の中には悪いことがはびこっていることに愕然とすることが多いけど、たまに本当にすごいいい話やいい人ってあるんですよね。

白人の兄弟を演じるエドワード・ノートンとエドワード・ファーロングが、本当の兄弟のようなケミストリーがありすごく好演していました。社会問題を取り上げているけど説教くさくもなく、どちらかの主義主張に偏ることもなく、またポリティクスではなくてヒューマニティの観点からテーマを語ってくれていて、色々考えさせられる作品でした。
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