カツマ

パプリカのカツマのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.2
欲望は夢幻の彼方。脳裏に潜む毒虫が、無限の膿を食い尽くす。そこは入ってはいけない魔の世界。底が抜ければ、空に堕ち、人が裂ければ、身は沈む。不協和音は鳴り響き、祭囃子は死出の道。自分の嘘を見抜くため、虚空に轟く不敵な弾丸。それは夢、全て夢。しかしとても甘美な、現実のような夢と幻。

惜しくも2010年、46歳の若さで没したアニメーション界の鬼才、今敏。彼の代表作としてあまりに名高い作品がこの『パプリカ』であり、海外での評価も高い作品である。平沢進による実験的なサウンドトラックに連れられて、夢の世界にひとっ飛び。しかし、その底知れない深さにはサイケデリックが縦横無尽に咲き誇る。原作者、筒井康隆が描いたパラレルな世界観は、今敏とマッドハウスによって奇っ怪な色彩と声を与えられることとなった。90分という短い尺をジェットコースターのごとく駆け抜ける、夢うつつのフェスティバルに没入すべし。

〜あらすじ〜

サイコセラピストの千葉敦子は人の夢の中で『パプリカ』へと姿を変える。
巨漢の天才、時田博士によって発明されたDCミニは、夢を共有できる未曾有のマシーン。それによって人は他人の夢の中を垣間見ることができ、パプリカは夢の中で患者のセラピーを行っていた。
今回セラピーを受けることとなった刑事の粉川は、映画の世界を追体験するという奇妙な夢を見る。そこには粉川の心の病みの秘密が隠されていて、その内実は霧に隠されていた。
一方、敦子たち研究所でも事件が起きていた。まだ実験途上のDCミニが何者かに盗まれ、まずは所長が夢に取り込まれ大怪我を負った。夢の中に研究員の氷室が登場していたことから、敦子たちは氷室の捜索へと乗り出すのだが・・。

〜見どころと感想〜

ストーリーとしてはクリストファー・ノーランの『インセプション』を先取ったかのような、夢と夢を行き来する摩訶不思議な世界観を持っている。人は夢見ることでどんな願望を叶えたいと思うのか。人の剥き出しの心へと肉薄するDCミニが、やがては騒乱を引き起こすのは必然とも言えただろう。黒幕は暗躍し、次第に夢と現実の境目すらも曖昧になっていく。

この映画の声優陣は非常に豪華で、主人公の敦子/パプリカに林原めぐみ、アムロの声まんまで時田を演じている古谷徹、他にも大塚明夫、田中秀幸など、有名どころがズラリと並んでいる。原作者の筒井康隆、監督の今敏も特別出演しているらしいが、自分には全く分からなかった(笑)
キャラクターに若者が少ないせいもあり、出演はベテランが多く、渋い役者で固められているイメージだ。

劇中の映画館の看板に今敏の歴代の作品を並べてみたりなど、比較的分かりやすい小ネタもあり。映像としてはやはり画面に穴が開くようなシーンと、グニャリと歪む解剖感はインパクトが大きく、それらのシーンを数珠繋ぎに回していくことで、出口の見えない夢の世界を面妖に演出した。

今敏の新作はもう見れないけれど、こうして素晴らしい作品を残してくれたことに感謝と畏敬の念を唱えたい。オープニングのカッコよさが最後まで持続する、朝起きたら忘れてしまっている豊かな夢のような作品でした。

〜あとがき〜

今敏の名作をようやくレビューできました。フジロックで平沢進は見逃してしまいましたが、やはり彼の作る音楽の偉大さはこの『パプリカ』で完璧に体現されていますね。角形の数を数えさせない夢見の園。それは人の心の映し鏡となっていて、夢を象徴するのもまた現実なのだな、と思わせてくれました。

今敏作品はあまりレビューできていませんので、今後もポチポチとあげていきたいところです。呑み込まれるようなアニメーションを体感できるのは、やはり最高の映像体験ですね。
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